第833話 人と女神と吸血鬼と(3)
「私はソレイユのその提案に頷いたわ。なにしろ、私も混乱していた。そこに何かを知っているようなソレイユが現れたものだから」
「・・・・・・私がシェルディアに話した内容は、私とあなたが繋がっているという事です。シェルディアはその事実に驚きながらも、私にあなたとの関係を簡潔に話してくれました。そして後日、詳しい事を話すから、どうかあなたを殺さないでほしいと私は嘆願しました。都合の良すぎる話です。だから、私はもちろん拒絶されると思いました。ですが、シェルディアは・・・・・」
チラリとソレイユがシェルディアの方に視線を向けた。視線に気づいたシェルディアは、まるで許可するかのようにコクリと首を縦に振る。その仕草を見たソレイユはこう言葉を続けた。
「・・・・スプリガンがあなただと分かった時点で、絶対に殺しはしないし傷つけないと、そう言いました。ですが、話はしたいと言ったので、このような状況になったという事です」
「な・・・・・・・・・・・」
その事を聞いた影人は唖然とした顔でシェルディアの顔を見た。シェルディアは澄ましたような顔を浮かべている。
「何でだよ・・・・・・俺はあんたを本気で殺そうとしたんだぞ・・・・? しかも、完全な俺の身勝手な感情だけが理由で・・・・・・・あんたからしてみれば、俺は知り合いってだけのただの人間のはずだろ。だって言うのに、何であんたは・・・・・・・」
それは謝罪や感謝の言葉ではなく、問いかけの言葉だった。影人には十分にシェルディアに殺されるだけの理由がある。何であれ誰かを、何かを殺そうとした者は、自身が殺されても文句は言えない。それが、殺そうとするという事だからだ。そうでなくとも、影人はスプリガン。レイゼロールが邪魔に思っている存在だというのに。
「それは・・・・・・・・私にとって、あなたは『ただの人間』では決してないからよ、影人。それはあなたがスプリガンだと分かっても、例え私の事をよく思っていなくても変わらない。あなたの前でも宣言するわ。私は、あなたを傷つけないしあなたを殺さない」
シェルディアは真剣な表情で影人にそう返答した。その顔に嘘や他の感情は見られない。シェルディアは本気でそう思っている。影人にはそのように感じられた。
「ッ・・・・・・・・・」
「と、このような感じです。シェルディアは気を失っているあなたを、あなたの家まで送っていくと私に言ってきました。もちろん、何もしないと誓って。その余りの真剣さに、私はシェルディアにあなたを託しました。シェルディアは自分の誇りと信条を持っています。私はその事を知っていた。だから、彼女が自分の言葉に嘘をつかないと考えました」
シェルディアの本気の言葉を聞いてどのような反応をしていいか分からない影人。その間に、ソレイユが補足の説明を入れる。ついでに、「まあそれでも一応、あなたのマンションの前までは同行しましたが」とソレイユは付け加えた。移動した方法は、シェルディアの転移だとも、ソレイユは述べた。




