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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第83話 強くなりたいと願うこと(3)

 光司がしえらの扉を開ける。「ありがとう」と陽華は光司にお礼を言って、店内に足を踏み入れた。

「・・・・・・いらっしゃい。席は好きな所をどうぞ」

 いつものようにグラスを磨いていたこの喫茶の店主であるしえらは、静かに2人のお客を向かい入れた。

 店内には高齢の男性が1人、コーヒーを片手に新聞を読んでいた。幸い、男性は端の席にいたため、これならばあまり大きな声でもない限り、会話を聞かれる心配もないだろうと判断した光司は、扉の近くの2人掛けのテーブル席に腰掛けた。

「・・・・・・・注文はある?」

 しえらがおしぼりとお冷やを2つお盆にのせて、2人の席にやってきた。お冷やとおしぼりを受け取った2人はしえらにお礼の言葉を言いながら、注文を行った。

「僕はレモンティーのホットをお願いします」

「しえらさん! 私はフレンチトーストをお願いします! もう、お昼から楽しみで楽しみで・・・・・・」

 実は、光司にここを教えてもらってちょくちょくこの店に足を運んでいた陽華は目を子供のように輝かせる。

 しえらの作る食べ物やデザートはどれも絶品なので、フレンチトーストという喫茶店のど定番メニューもおいしいに決まっているという考えである。

「・・・・ん、わかった。腕によりを掛けて作る」

 しえらは陽華の言葉が嬉しかったのか、少しだけ口角を上げてそう言った。

 それからしばらくして、光司の注文したレモンティーが来た。さらに10分ほどすると、陽華の注文したフレンチトーストもしえらが持ってきてくれた。

「・・・・お好みでシュガースティックもどうぞ」

「うわー・・・・・・・! ありがとうございます! おいしそう・・・・・・!」

 ふわっふわっの蜂蜜たっぷりのフレンチトーストに、陽華はサラサラと適量の砂糖を振りかける。我慢ができないとばかりに、フレンチトーストを注視する。

「話は後にして先に味わおうか。しえらさんに申し訳ないからね」

 そんな陽華を見た光司は微笑ましい気持ちになり、陽華にそう提案した。

「うん! そうだね!」

 弾けるような笑顔で陽華は頷いた。

 そして手を合わせて「いただきます!」としっかり言って、陽華は蜂蜜のたっぷりついたフレンチトーストを食した。

「ん~~! おいっしい・・・・・・!」

 ほうっ、と陽華はそんな感想を漏らした。

 絶妙な甘さとトロトロの食パンに人類は勝てないのだと思い知らされる。

 陽華は基本的に食べ物なら全ておいしくいただける系の人間だが、陽華も女子である。甘い物には特に目がない。

 しえら渾身のフレンチトーストは間違いなく、陽華の人生で食べた中で1,2を争うほどに美味しかった。

「しえらさん! とっっっても美味しいです!」

「ん・・・・・・・よかった」

 ビシッと親指を立て、陽華はしえらにサムズアップした。そんな陽華にしえらも同じくサムズアップで答えた。

「あ、そうだ。香乃宮くんも一口どうぞ! びっくりするくらいおいしいよ!」

 陽華が一口大に切ったフレンチトーストをフォークに突き刺して、光司の方に向けてきた。

「え、僕はいいよ。そ、それに・・・・・」

 これはいわゆる「あーん」というやつではないか。

 陽華に直接そのようなことは言えないどこかへたれな光司だが、当の本人はそんな事には気がついてない様子である。

「遠慮しなくていいよ! ほら、あーん」

「え、えぇぇぇぇ・・・・・・・!」

 陽華はその言葉を言って、変わらず光司にフレンチトーストを突き出してくる。

 つまり、あーんである。

(お、落ち着け・・・・! 平常心だ!)

 字面だけ見てみると、ふざけんてのかてめぇといったような感じだが、男子高校生の端くれである光司にとっては一大事である。

 香乃宮光司はそのルックスとステータスから女子に絶大な人気を誇る超ハイスペック男子だが、プレイボーイではない。というか、女子と付き合ったことも1度もない。

 つまりはどこぞの見た目陰キャ野郎と同じ童貞である。

 ではなぜ、光司という超ハイスペック男子がどこぞの見た目陰キャ野郎と同じなのかというと、それには光司の恋愛観やら、女子同士の目には見えない牽制やら、お家の事情など様々な要因がある。

 結局のところ、何が言いたいかと言うと、同年代の女子からあーんされるのは初めてなのである。

(ど、どうする!? これはもういったほうがいいのか!?)

 意を決して食べるべきか、それとも紳士らしく断るべきか。守護者ランキング10位の猛者は激しく迷っていた。

ブクマ50達成しました! 遂に目標の半分にいきました。これも日頃から読んで頂いている皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!

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