第829話 スプリガン、そのベールは剥がれ(4)
「あ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・よ、よう」
ドアを開け影人の姿を確認したシェルディアは、少し戸惑ったような顔を浮かべそんな声を漏らした。一方、影人もどう声を掛けていいかわからず、そんな挨拶言葉を述べた。
「・・・・・・・・・・・こんにちは影人。元気そうで何よりだわ」
「あ、ああ・・・・・どうもだぜ・・・・」
少しの間黙っていたシェルディアは、淡い微笑みを浮かべながら影人にそう言ってきた。自分の事を気遣うようなその言葉に、影人は驚きながらもそんな言葉を漏らした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
だが、唐突にどこか気まずい沈黙が互いの間に流れた。無理もなかった。なにせ昨日自分たちは本気で殺し合いをしたのだから。特に、影人はシェルディアへの殺意を全く隠してもいなかったのだから。
「・・・・・・・・・・・・影人。お互い色々と言いたい事や思いもあるでしょうけど、今だけは何も言わずに、私と一緒にある場所に行ってくれないかしら? 絶対に、あなたに危害を加えないと誓うから。・・・・・・あなたには、もはや私の言葉は信用できないでしょうけど・・・・・・・・・・・・お願い」
その沈黙を先に破って、シェルディアは影人にそんな事を告げた。様々な感情が入り混じってはいるが、不安の感情がその比重を占めるような表情だ。シェルディアのそんな表情は今まで見た事がなかった。
「・・・・・・・・・分かった。俺も嬢ちゃ・・・いや、あんたには色々と聞きたい事がある。少し待ってくれ。出る準備をする」
「うん・・・・・・・分かったわ」
影人が他人行儀に「あんた」と呼び直した箇所で、シェルディアはその顔色をまた少し変えたが、影人はその事にあえて気が付かないフリをすると、一旦玄関のドアを閉めた。
「・・・・・・・・・・そんな顔、しないでくれよ」
閉めたドアの前で影人はポツリとそう呟くと、外に出る用意をするべく自分の部屋に向かった。
「・・・・・悪い。待たせた」
それから3分後。影人は玄関のドアを再び開け、待っていたシェルディアにそう言った。さっきまでの服装は昨日のままだったので着替えていたのだ。と言っても、色が違うだけの半袖と半パンなのであまり変わり映えはしないが。風呂は気を失っていたため昨日から入っていないが、とりあえず全身にファブ○ーズをかけたので大丈夫だろう。
「いいえ、大丈夫よ。では、行きましょうか」
シェルディアは軽く首を横に振ると、マンションの構内を歩き始めた。影人は少し警戒した様子で、シェルディアの後について行く。
『――影人。聞こえていますか?』
影人がシェルディアの後ろを歩いていると、頭の中にソレイユの声が響いて来た。
(っ、ソレイユか。ああ、ちゃんと聞こえてる。お前には色々と聞きたい事があるんだが・・・・・・取り敢えず1つだけ聞かせてくれ。お前、イヴ・・・・というか、ペンデュラムがどこにいったか知らないか?)
影人はソレイユにそう質問した。これだけは絶対に聞いておかなければならない事だからだ。あのペンデュラムがなければ、影人はスプリガンに変身する事が出来ない。
『その事については安心してください。イヴさん、もといペンデュラムは私が預かっていますから。あなたが気を失った後、万が一にもシェルディアに盗られないように私が神界に持ち帰りました』
(そうか。それはよかったが・・・・・・俺が気を失った後にお前が回収した・・・・・・? いったいどういう事だ?)
影人はペンデュラムをソレイユが持っているという事を聞いて、心の底から安心しつつも同時に疑問を抱いた。影人からすれば、ソレイユの言葉は全く分からないものだった。




