第828話 スプリガン、そのベールは剥がれ(3)
「そう。昨日の夜の10時半くらいに、シェルディアちゃんが気を失っているあなたの肩に手を回しながら、あなたを届けてくれたの。『影人の事だから、1人で公園で遊んだ帰りに道端で転けて頭でも打ったんだろうって』。私はその理由に大いに納得した。あなたなら十分にあり得ると思ったから」
「何気にひでぇ事いうな、お前・・・・・」
「じゃあ、あなたが気を失って道端に倒れていた理由は何だったの?」
「あー・・・・・・・・・・嬢ちゃんの予想通りだ。久しぶりにブランコ本気で漕いで疲れてたから、帰りフラついて転けたんだったぜ。今ようやく思い出した」
シェルディアが適当にでっち上げたであろう理由に大いに納得したと穂乃影に言われ、多少は心が傷ついた前髪だったが、咄嗟に他のそれらしい理由を思い付けなかったので、結局は穂乃影の言葉を肯定した。これで自分はいわゆる「情けない奴」のレッテルを自分から貼ってしまったわけだが、ここは仕方がない。穂乃影に自分がスプリガンとバレるよりはましだ。そう、これは必要経費というやつだ。
(それにしても、シェルディアが穂乃影にそんな嘘までついて俺を助けたのはなぜだ? そもそも、シェルディアの奴は穂乃影が光導姫だって事を知っているのか、知っていないのか・・・・・・)
影人はシェルディアが自分のためにそのような嘘をついた理由が気になった。シェルディアが嘘をつくメリットは今のところない。シェルディアにそのような嘘をつかれてメリットがあるのは影人だけだ。ゆえに、影人はシェルディアが嘘をついたのは自惚れではなく客観的に自分のためだと考えた。
「・・・・・・とりあえず、起きたんだったらご飯食べたら? もうお昼だし。・・・・・後、昨日昼にまたシェルディアちゃんが来るって言ってたから、準備もしておいた方がいいと思う」
「え・・・・・? あ、ああ・・・・・・・・・・・」
影人は穂乃影の提案につい反射的に頷いた。シェルディアが訪ねて来る。その事に昨日までは感じなかった緊張を感じつつも、影人は自分の腹がぐぅと鳴るのを聞いた。
「・・・・・・・・・・まずは飯食うか」
影人は全ての考え事を一旦頭の隅に追いやると、食欲に身を任せ穂乃影と共にリビングへと足を運んだ。
「っ・・・・・来たか・・・・」
目を覚ました影人が、母親の作ってくれていたお昼ご飯を食べ終えて少しすると、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。影人はどこか緊張したようにインターホンを覗くと、そこには案の定シェルディアがいた。
(ったく、昨日の今日で本気の殺し合いした奴とどんな顔して会えばいいんだよ・・・・・・・)
影人は心底複雑な気分でそんな事を思った。先ほどスマホを見て、今日は9月22日の土曜日と分かったので、昨日の戦いからは1日しか経っていない。そんな状態で、自分はシェルディアとどう接すればいいのか、影人にはまるで分からなかった。
「・・・・・・ほら、早く出てあげないと。わざわざ、あなたみたいな変人に会いに来てくれたんだから」
「分かってるよ。あと、俺は断じて変人ではない」
穂乃影からそう促された影人はそんな言葉を返しつつも、玄関へと向かった。足が重い。だが、扉を開けてシェルディアと顔を合わさない事には、自分が気を失った後に何があったのか全く分からない。ゆえに、影人は玄関の扉を開けねばならないのだ。
「・・・・・・・・覚悟を決めろよ、帰城影人」
玄関のドアの前に辿り着いた影人は、ボソリとそう呟くと玄関のドアを開けた。




