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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
820/2051

第820話 影との対話(4)

「鬼ごっこはもう終わりかしら? スプリガン」

 一方、現実世界。影人が己の禁域にいる間に、戦いの情勢はまた動いていた。

「ちっ・・・・・・!」

 シェルディアの語りかけに、影人の体を動かしているイヴは忌々しそうに、どこか焦ったように舌打ちをした。

 シェルディアが無造作に星を降らせ始め、それでもなおイヴは姿を消して逃走していた。だが、その余りの物量、星が降る速度はイヴが想像していたよよりも凄まじく、イヴは光となった星に右腿を撃ち抜かれてしまった。そのショックで、イヴは反射的に透明化を解除してしまった。そしてその攻撃を受けてしまった事がまずかった。

 ここはシェルディアの『世界』。星の攻撃に何らかの信号でもあったのかは分からないが、シェルディアはイヴが攻撃を受けた3秒後に地面から滲み出る影のように、イヴの前に移動してきた。そうして今のような状況になってしまったというわけだ。

(やっぱり最後はこうなるか。ヤバいぜ、時間は多少は稼げたが影人の奴がまだ意識を取り戻す気配はない。ここは一か八か、もう1回姿を消して逃げるしか――)

 右腿に受けたダメージはなけなしの力を振り絞って何とか回復させた。これで力の残量は1割と8分くらい。いよいよ残量も本当になくなってきた。だがまだだ。まだこの体の本来の持ち主は諦めていない。ならば自分がすべき事は決まっている。イヴはそんな事を考えてそれを実行しようとしたが、

「ああ、ダメよ。もう鬼ごっこは飽きちゃったから。逃がさないわよ」

 だが、シェルディアはそんなイヴの心の内をまるで読んでいるかのように先手を打った。シェルディアがパチリと右手を鳴らすと、シェルディアの影が円形に広がり、やがてそれはドームのように周囲を覆い始めた。天井だけは開いている。恐らくというかほぼ間違いなく星の攻撃のためだろう。

「これであなたはもうどこにも逃げられないわ。死してもあなたの魂は私に縛られる。だから、あの世にも逃げられはしないわ」

「はっ、そうかい。そいつはご苦労な事だな・・・・・!」

 逃げ場を封じられたイヴは、そう皮肉を返すのが精一杯だった。これでもうイヴは逃げ回って時間を稼ぐという事は出来なくなった。そしてこの状況は、いつでもシェルディアが星を降らせてスプリガンを殺せるという、実質的な()()()の状況でもあった。

「さて、それじゃあこの戦いもそろそろ終わりにしましょうか。あなたの雰囲気がガラリと変わった事は気になるけど、仕方がない。あなたは何も言わないでしょうし。スプリガン、一応に聞いておくけど、最後に何か言い残す事はあるかしら? もしあるのならば聞いてあげるわ」

 シェルディアが超然とした笑みを浮かべながら、スプリガンに最後の問いかけを行った。この問いかけに答えずとも、例え答えとしても、そこでイヴは、スプリガンは殺されるだろう。本能として、イヴはその事が分かった。

(ちくしょうが・・・・どうやら、ここで終いみたいだぜ影人。ったく、これもお前が早く戻ってこないからだぜ・・・・・・・・)

 言葉を聞いたイヴが全てを諦めたように内心で思わずそう呟く。やれるだけはやった。そのつもりだ。これ以上はもう何も出来ない。イヴがそう思った次の瞬間、


 自分の意志とは違う意志が、精神の奥底から這い上ってくるのをイヴは感じた。


「ッ!? はっ、遅えんだよ・・・・・・・だが、ギリギリセーフだぜ・・・・!」

 イヴはつい笑みを浮かべながらそう言葉に出した。どうやら、やっと来たようだ。

「? あなた、何を言っているの?」

 イヴの言葉を聞いたシェルディアが首を傾げる。まあシェルディアからすれば、それは全く意味が分からない言葉だろう。この言葉の意味が分かるのは、イヴ以外には絶対にいない。

「別にお前には関係ねえ話だ。ああ、最後に何か言うかって事だったな。じゃあ、俺から1つだけ。――俺の役目はここまでだ。後はまたあいつと戦うんだな。化け物野郎」

「あいつ・・・・?」

 イヴは最後にそう言って、その意識を上ってきた意識に明け渡した。

「・・・・・・・・・・・・ありがとよ、イヴ。お前が繋いでくれたから、俺はまたこうして戻ってこれたぜ」

 そしてイヴと代わったその意識――この体の本来の主意識である影人は、イヴにそう感謝の言葉を述べたのだった。

「・・・・・・・よう、吸血鬼。待たせたな。待たせたついでに、お前に面白いもの見せてやるぜ」

「さっきからあなたが何を言っているのかは分からないけど・・・・・・雰囲気が元に戻ったわね。まあいいわ。もうあなたの死は決まっているのだから」

 ニヤリと笑った影人を見たシェルディアは、その笑みに何かを感じ少し不機嫌そうに言葉を返した。何を感じたのか、正確にはわからない。しかし、シェルディアはスプリガンの笑みから、本能的に何かを感じ取った。

「俺の死ね・・・・・・・そいつはどうだろうな。もしかしたら、死ぬのはお前かもしれないぜ」

 影人は悠然とした態度を崩す事なくそう言うと、最強の吸血鬼に向かって再び笑みを浮かべた。

「見せてやるよ。お前に、俺の『世界』ってやつをな」

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