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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
82/2051

第82話 強くなりたいと願うこと(2)

「・・・・・・・・・・」

 一方、3人から距離の離れた席で弁当を食している人物が1人。

 食堂の風景に溶け込みながら、母親の弁当を食べている影人である。

(まあ、香乃宮ならそんな反応をすると思ってたがビンゴだったな)

 ひょいとニ〇レイの唐揚げをつまみながら、先ほどの光司の反応を見ていた影人はそんなこと考えた。

 香乃宮光司は守護者の10位、2つ名『騎士ナイト』。

 ソレイユの話ではレイゼロールと自分との戦いは、光導姫と守護者の各10位までに伝達することが決定したということであったから、光司もその事を知っていることは容易に想像できた。

 そしてあの優しく紳士的な性格の光司ならば、当事者である陽華と明夜のことを心配しないはずがない。ましてや、光司が警戒していたスプリガンから攻撃を受けたという情報が入ってくれば、間違いなく光司は休み明けに2人に接触してくる。

 しかし、クラスも違い、登校時間が違う光司、陽華と明夜の2人では接触できる時間は限られる。そう昼休みである。ゆえに影人は学食・購買派の陽華と明夜の後をつけ、この席で同じく学食派の光司が2人に接触するのを待っていたというわけである。

(香乃宮は今回の件で間違いなく俺を敵と認定しただろうな。つーか、光導姫を攻撃したって情報を伝えられた奴らは軒並み俺のことを敵と認定するだろうが・・・・・)

 このような思考はソレイユと話し合った時にも、考えたものだが、それは仕方が無い。何せ、その情報を伝えられた内の1人が視界にいるのだから。

(元々、味方なんていなかったが、敵だけは増えていくってのは面倒くさいことこの上ないな)

 ソレイユの方針で自分は所属のないワンマンアーミー(スプリガンの力を考えると、決して比喩ではないと影人は考えている)として活動している。

 確かに、スプリガンの力は強大だ。結果的にはあのレイゼロールすらも退却させたのだ。しかも、向こうはこちらを殺す気できていた。

 もしかしなくとも、これから自分は光司やその他の光導姫や守護者と戦わなくてはいけないかもしれない。

 だが、影人は光導姫と守護者と戦って負けるということはないと考えている。これは決して驕りではなく、フェリートやレイゼロールといった強敵をファクターとして客観的に見た事実だ。

 しかし、敵が増えるであろうことは事実だ。それがいくら自分より弱いといっても、精神的には面倒な事として処理される。

 一言で言うと、「ちょっと気が重いなー」ということだ。

「・・・・・・・・はっ、一匹狼はつらいぜ」

 光司の反応を窺うという目的を達成した影人は、静かに1人でお弁当を完食した。










「あ、香乃宮くん。こっちこっち」

「ごめんよ、朝宮さん。ちょっと、生徒会の仕事が入っちゃって・・・・・・」

 放課後。正門前で光司を待っていた陽華は慌てて出てきた光司に手を振った。

 生徒会の仕事で少し遅れた光司は、陽華に申し訳なさそうに頭を下げた。自分から誘っておいて、遅れたというのは何とも不甲斐ない話だ。

「全然大丈夫! じゃあ、行こっか」

「ああ、そうだね」

 陽華と光司は喫茶しえらに向かうため、歩き始めた。

「そういえば、月下さんの部活って書道部だったかな?」

「うん。小学校の時からずっと明夜は書道を習ってたから。ちょっと、ポンコツなところもあるけど、明夜の字はすっごい綺麗なんだよ」

 しえらまでの道中、会話を挟みながら光司は陽華の姿を見た。

(なんだか、新鮮だな・・・・・)

 光司の知る限り、陽華と明夜はいつも一緒だった。むろん、常に一緒というわけではないだろうが、それでも陽華と明夜は2人で1セットといったような感覚が光司にはある。ただ、こう思うのは光司だけでなく風洛高校の生徒ならば皆そう思うのではないかとも考える。それほどまでに2人は一緒に行動している。

 しかし今いるのは陽華1人だ。その事が光司にとっては新鮮に思えた。

(・・・・・・・でも、やっぱり朝宮さんの笑顔は眩しいし素敵だな)

 陽華の笑顔を見ているとこちらまで気分が明るくなるような、笑いたくなるような、そんな気持ちにさせられる。

 それとなぜだかは分からないが、胸がぎゅっと締め付けられるような不思議な気持ちも――

「いやー、やっぱり学食の唐揚げ定食は絶品だよねー。香乃宮くんは食べたことある?」

「僕はまだかな。どちらかというと魚の方が好きだし・・・・・・」

「ええっ! それはもったいないよ! 絶対食べた方がいい!」

 光司がそんな事を考えているとはつゆ知らずに、陽華は他愛のない話を光司に話し続ける。

 そしてそうこうしている内に、2人は住宅街の中にポツンとある喫茶店しえらに辿り着いた。


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