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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第819話 影との対話(3)

「い、意味が分からん。俺はそんな事は出来ないぞ!? そもそもやり方も分からないし・・・・それにお前も言ったじゃねえか! 『世界』を顕現できる者は本当にごく少数だって・・・・・・・! 俺はソレイユの奴から力は与えられたが、所詮はただの人間だ。そんな無茶苦茶な事、出来るわけないだろ・・・・・・・!」

 影人はつい立ち上がりながら影にそう言った。自分も『世界』を顕現させればいい。簡単な事のように影は言うが、そんなこと出来るはずがない。影のその方法は、あまりにも現実的ではなかった。

『まあ、そうだな。お前は色々と特異な所はあるが、分類で言うとただの人間。人間が「世界」を顕現させる事など本来は何がどうなっても不可能だ。だがね、影人。お前は違う。お前の中には、()()()()。そして、曲がりなりにも「世界」を顕現できる資格のある力も現在お前は持っている。この2つの条件さえあれば、お前も「世界」を顕現させる事は可能だ』

「お前がいるからだと・・・・・? どういう事だ、何でお前の存在が俺が『世界』を顕現できる条件になり得るんだよ?」

 影の答えに影人は疑問を抱いた。力に関してはまだ分かる。影が言っているのはスプリガンの力の事だろう。スプリガンの力はおよそ万能。その力が『世界』顕現に必要な力の資格となる。多分だがそういう事だ。しかし、影の存在が『世界』顕現に必要な条件というのは理解が出来なかった。

『ふふっ、まあ確かにお前からしてみれば疑問かもしれないな。お前は吾がどういった存在かは未だに正確には理解していないから。いいかい、影人。「世界」の顕現にとって1番難しいのは、自身の本質を外に広げるという感覚なんだ。多くの者は、例え「世界」を顕現できる資格があったとしても、ここで躓いてしまう。それ程までに、この感覚を得るのは難しい事なんだよ』

 影は影人の方にその顔を向けると、そんな説明を始めた。正直、まどろこしくも感じるが、必要な説明なのだろうと理解して、影人はその説明に耳を傾けた。

『本来なら、どんな者だろうとこの感覚を得るのに時間を使わなければならない。まあ、最低でも100年くらいはね。長い者だと1000年掛かる事もあるし、どれだけ時間を掛けてもその感覚を得られない者もいる。だから、「世界」を顕現させようと思えば、時間がいる。しかし、その唯一の例外がお前だ影人。お前はこの時間を使わずに、力を使うだけで「世界」を顕現させる事が出来るのさ。なぜなら、その感覚もその他の「世界」を顕現させる工程も、全て吾が直接お前にやり方を教えてやればいいだけだからな』

 影は影人に向かってニヤリとしたようにその白い穴を歪ませながら、そう語った。

「っ、お前まさか・・・・・・・・『世界』を使う事が出来たのか? じゃなきゃ、意味が通らない。お前は本当にいったい・・・・・」

『吾は吾だよ。それ以上でもそれ以下でもない。まあ、お前が予測したように吾はかつて「世界」を顕現できた。かつての吾からすれば、()()()()()()()()()訳ないことだったからね。まあ、それはそれとして』

 影は驚く影人に淡々とそんな事を述べると、スッと影人に向かって右手を差し出した。

『さあ影人。吾のこの手に触れるんだ。吾の手に触れたその瞬間に、お前の中に直接「世界」顕現に必要な知識がいく。それで、お前は「世界」顕現のやり方を完全に体得できるよ』

 そして、影は影人にそんな事を告げたのだった。

「・・・・・・・・・・・・なるほどな。それがお前が『世界』顕現の条件になる理由か」

 影人は影の差し出された右手を見て納得した。影の本体はかつて『世界』を顕現できたという。そしてその存在の残滓たる影も、力がないだけで『世界』を顕現できる方法は知っている。ここは影人の記憶の中。影に触れれば影の教授した知識は、影人の中に実感として伝えられる。それが、影人が時間を使わずに、影人だけが『世界』を顕現できる理由なのだ。他の人間の中には、おそらくこんな化け物の影はいないはずだから。

『そういう事だよ。お前が吾の手に触れ、知識を実感として得れば、後は意識を取り戻して現実世界に帰ればいいだけ。そして力を注ぎ込んでお前の本質に依る「世界」を顕現させればいいだけさ。そうすればたぶん、吸血鬼の不死性もどうにか出来るはずだよ』

「・・・・・・俺がこの手に触れればか」

 嫌悪感を隠さずに、影人はそんな言葉を呟いた。それは絶対に必要な工程なのだろう。もちろん嘘の可能性もない事はないだろう。しかし、影人はどこかで影のこの言葉は嘘ではないとちゃんと理解していた。それがなぜなのかは説明できない。だが、それだけは分かった。

『嫌かい? 例え記憶の残滓とはいえ、吾の手を触れるのは。だが、握るしかないのだよ影人。憎しみを超越して、お前はこの手を握らなければならない。それ以外に、お前が生き残る方法はないのだから』

 影人の自分に対する感情を理解しながらも、影は影人に更にそう言葉をかけた。そして畳み掛けるように最後にこう言葉を述べる。

『さあ、触れろ影人。この手に触れ、お前の本質を以て「世界」を顕現させろ。そして、自分の敵を討て。そのために、吾の手に触れろ帰城影人!』

「・・・・・・・・触れろ触れろって何回もうるさいんだよ。俺はもうガキじゃないんだ。そんなに言われなくても、言葉は理解してる」

 影人は低い声音でそう言うと、一瞬だけ自身の葛藤を全て飲み込みながら、自分の右手を影の手に近づけていき――


 ――その手で影の手に触れた。

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