第818話 影との対話(2)
『――そもそも「世界」とは何か。その事は知っているかい影人?』
「・・・・・・シェルディアの奴が言うには、『周囲の空間を自らの望むままに、あるいはその者の本質で周囲を覆う業』だったはずだ。他にも細かな説明は言ってたが、言葉が難解で意味は分からなかった」
影の話を仕方なく聞く事にした影人は、影と拝殿に移動しその小さな段差のある場所に腰を下ろした。影と話をするためだ。
『そうか。あの吸血鬼が大体の説明をしたのか。その時はそこまでこの場所が緩んでいなかったから分からなかったよ。うん。そして吸血鬼の言葉は正しい。それが「世界」という業だ。どうやら詳しい「世界」の説明はいらないようだ』
影は影人の答えを聞くと満足したようにその首を縦に振った。
『「世界」はいまお前が言ったように、周囲の空間を自らの望むままに、その者の本質で周囲を覆う業。そしてこの「世界」を実際に顕現できる者は、本当にごく少数しかいない。神界、この世界、そしてあちら側を含めてな。あの吸血鬼はそんなごく少数の1人という事になる。そして、この「世界」は扱える者が限られる事からも分かる通り、強力に過ぎる業だ。それこそ、使用されれば相手の負けがほとんど確定する程に』
「っ・・・・・・それ程かよ。あの星の攻撃を喰らってから考えたが・・・・つまり、俺はシェルディアの奴に手加減されてたって事か」
影の話を聞いた影人はどこか面白くなさそうにそう言葉を漏らした。結局のところ、自分がどれだけ足掻こうがシェルディアの掌の上だったわけだ。その事実が、影人を不快にさせた。影人にもなけなしに等しいがそれくらいのプライドはある。
『必ずしもそうとは限らないよ。ただ手札を温存されていた事は事実だろうが。さて、お前の相手はそんな「世界」にお前を取り込んだ相手であり、不死ときている。普通ならこの状況で詰んでいる。普通ならな』
「・・・・・そろそろ勿体ぶらずに教えろ。俺がそんな詰んでる相手に勝つ方法っていうのは何だ? お前はそれを俺に教えるといったはずだ」
影人は隣に座る影に焦れたようにそう言葉をかけた。影人が影の話に仕方なく応じたのは、その方法がどんなものか気になってしまったからだ。でなければ、誰がこいつと話などするものか。
『そう急くなよ。今からお前に逆転の方法をしっかりと教えてやるからさ。お前があの吸血鬼を殺して勝つ方法、それは――お前も「世界」を顕現させる事だ』
影は何でもないように、いっそ気楽な程に影人にその方法を告げた。
「は・・・・・・・・? 俺も『世界』を顕現させるだと・・・・・・・・・・・?」
そして、その方法を影から聞かされた影人は、驚愕と理解が追いつかない事から、ポカンとその口を開けた。




