第817話 影との対話(1)
「シェルディアに勝てる方法をお前が俺に教えるだと・・・・・・・・?」
影からそんな事を言われた影人は、訝しげにそんな声を漏らした。
『ああ。吾としてもお前が吾以外の者に殺されるというのは面白くない。この世でお前を殺していいのは吾だけだ。それは誰にも譲りはしない。だから、お前にこんな所で死んでもらうわけにはいかないんだよ』
影はゆらりと首を縦に振る。そして言葉を続けた。
『そのためにはお前に勝ってもらなくてはならない。ゆえに今回だけはお前に何も求めずに教えるよ。それが、吾のためにもなるからな』
「・・・・・・はっ、お前の言葉なんて信用できるかよ」
影の言葉を聞いた影人は率直にそう言葉を返した。全てにおいて、影の言葉を影人は信用出来なかった。影がどんな存在か、影人はよく知っている。だから、絶対と言ってもいいほどに影人は影を信用出来ない。
『信用できないのは知っているさ。吾とお前の関係を考えればね。本当を言うなら、吾だってお前にこんな事は教えたくない。だが、こういう状況になってしまっては仕方がない。これでも譲歩しているんだよ、吾は』
影はそう言いながら、徐々に影人の方に向かって歩いて来る。影人は前髪の下から影を睨みつける。だが、その場から動こうとはしなかった。すぐ後ろに出口があるというのに。
『影人、お前がまだ勝利を諦めていない事は分かるよ。お前のそういう所は吾もよく知っている。だから吾は本体を封印され、お前の記憶の中にいる影なんかになってしまったのだから。だが、お前も本当は分かっているはずだ。このまま戻っても、あの吸血鬼には勝てないと。あの不死をどうこうする手を、お前は思いつけていない。それは、どうしようもない事実のはずだよ』
影は影人のすぐ正面で立ち止まり、影人の顔をそのぽっかりと空いた白い穴で見つめた。その白い穴は虚無だった。白色の、真っ白な虚無だ。
『生きる事を、勝つ事を諦めないお前なら、吾の話に耳を傾けるはずだ。今この時のみ、お互いの蟠りは忘れようじゃないか』
至近距離からどこか囁くようにそう言葉を放った影。そんな影に向かって、影人は少しの間言葉を返さなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・聞くだけ聞いてやる。ただし手短に話せ。それと嘘をついていると感じたら、すぐに俺はここから出て行くからな」
影人が次に述べた言葉は、そんな言葉だった。
『いい答えだ』
そして、その言葉を聞いた影はその口の白い穴を笑みの形に歪ませた。




