第815話 閉ざされた記憶の中で(3)
「・・・・・・・・」
一方、シェルディアの星による攻撃によって意識を失った影人は、自身の精神の最奥にその意識を引かれていた。だが、影人はなぜか暑さのようなものを感じ長い前髪の下の両目を開いた。
「っ・・・・・暑い・・・・? どういう事だ、俺は確か気を失ったはずじゃ・・・・・・・・・」
影人は奇妙さを感じつつも、倒れていた自身の体を起こした。これもまた奇妙だった。気を失ったはずの自分に肉体の感覚があり、意識がある。更に言葉も呟ける。失神したという自覚がある影人からしてみれば、それらは奇妙な事でしかなかった。
「・・・・・・・・いや、こういう感覚は1回体験した事があるな。イヴと直接対話しに自分の精神の中に入った時だ。って事は、ここは俺の精神世界か。格好は・・・・スプリガン形態じゃなく普段の俺だな」
影人は立ち上がると自分の体に視線を落とした。格好は風洛高校の夏服だった。前髪の長さは視界でわかる。いつもの顔の上半分を覆うほどの長さだ。
「・・・・・・・・・・・・この暑さと石畳が見えた時から覚悟はしてたが、やっぱりここか・・・・」
影人はぐるりと周囲と空を見渡した。空に燦然と輝くのは夏の太陽。正面には拝殿があり、その奥に本殿が見える。周囲には森が広がっており、後ろを見ると朱色の鳥居が見えた。ただ普通の鳥居と違って、鳥居の中の空間は歪んでいる。影人が立っている場所には石畳が敷かれているので、ここは参道という事が分かる。つまり、この場所はどこかの神社であった。と言っても、ここは影人の精神世界。これらの風景は全て影人の記憶であり、偽物に過ぎないわけだが。
「・・・・・・・・・・・・おい、いるんだろ。出て来いよ」
影人は自分から見て右側、そこにあった大きな石に向かって、心底嫌そうな声でそう言った。出来るならば、もう2度と会いたくはなかった。イヴを助けた時、それが最後だと影人は思っていた。しかし、いかなる運命か。影人は再びこの場所に訪れてしまった。アレの言葉通りにまた会ってしまったのだ。
『――ふふっ、あまり驚いてはいないようだ。その事だけが少し意外だったよ、影人。お前はもっと取り乱すかと思っていたのだが』
すると、今まで何もいなかった石の上に突如として影が現れた。それは影としか形容できないものだった。体つきや髪の長さから分かるのは、その影が女性だという事のみ。顔に当たる場所には、3つの白い穴が空いていた。位置からするに目と口だろう。そしてその影は、口に空いた白い穴を三日月状に歪ませると、影人に対してそう言葉を返した。




