第813話 閉ざされた記憶の中で(1)
(終わりかしらね・・・・・)
幾条かの星によって撃ち抜かれたスプリガンを見て、シェルディアは率直にそう思った。その証拠に、スプリガンは精神に多大なダメージを受け今にもその意識を暗闇に明け渡そうとしている。そして、肉体と精神に甚大なダメージを受けたスプリガンはそのまま倒れ――
――はしなかった。
「っ・・・・・・・・?」
スプリガンは倒れそうになるのを既の所で堪えた。その光景を見たシェルディアは、どう言う事だといった感じの顔になった。
「・・・・・・ったく、あの野郎。そういう事かよ。俺がギリギリで気づいてなきゃ、今ごろヤバかったぜ・・・・・・・・・!」
倒れるのを堪えたスプリガンがそんな言葉を呟く。その言葉はシェルディアからしてみれば、全く以て意味が分からないものだった。そして、シェルディアはそのスプリガンの言葉を聞いて、ある違和感のようなものを覚えた。
(何かしら。スプリガンの雰囲気が急にガラリと変わった・・・・・・? そんな感じがするわ。いったい、何が起こったというの?)
シェルディアは今の言葉から何かを感じ取った。その何かはシェルディアの中で疑問へと変わる。そして、シェルディアがその疑問に少し思考している間に、スプリガンは自分の体に空いている穴を闇の力で回復させた。
「悪いな化け物さんよ、ちょいと時間をもらうぜ!」
スプリガンはそう言いながら自身の左手を振った。すると、そこから闇色の霧が突然発生し、周囲は一瞬にして闇の霧に包まれた。視界が闇に包まれたシェルディアは、スプリガンの姿を見失った。
「やはり、言葉遣いが変化している・・・・・全く、あなたはどこまでも謎の男ね」
シェルディアは突如として視界を闇色の霧に奪われた事に毛ほども驚かずにそう呟いた。シェルディアは自身の右手の爪を伸ばして、軽くそれを振った。するとそれだけで霧は切り裂かれ、シェルディアが爪を振るった余波で周囲の霧も全て吹き飛ばされてしまった。
「・・・・・・・・いないわね」
だが、シェルディアが霧を払うとスプリガンの姿はどこにもなかった。
「一旦距離を取ったか、それとも姿を消して近くで息を潜めているのか・・・・・・・どちらにせよ、ここは私の『世界』。私の許可がなければ、どこにも逃げる事は出来ないわ」
シェルディアは周囲を軽く見渡しながらそう言葉を述べると、狩人の笑みを浮かべた。
(取り敢えず姿を消して逃げちまったが、これからどうするか。いや、考えるのは後だ。今は少しでもあの化け物から距離を取って、また影人の奴が意識を取り戻すまでの時間を稼がねえと・・・・・・!)
シェルディアに霧を放ってその隙に全速力で逃亡したスプリガン――もとい、影人の体の主意識になったイヴは内心でそんな事を呟いた。




