第812話 星が降る(4)
「・・・・・・・・・・・・・・・やったぜ。賭けは、俺の・・・・・勝ちだ・・・・・・・・!」
影人はグッと拳を握る。勝った、勝ったのだ。自分はシェルディアに勝った。奇跡を超えた大奇跡は、今ここに起きた。
だが、影人の興奮の余韻も冷めやらぬうちに、無情な現実が影人を襲った。
「ッ!?」
一瞬だった。影人が砕いたシェルディアだったものカケラたちは、1人でに少し離れた場所に一箇所へと集まっていく。それらはやがて人の形へと戻っていき――
「――さて、満足したかしら?」
完全に元通りになり、シェルディアは超然とした笑みを浮かべながら、影人にそう聞いて来た。
「はっ・・・・・・・・・・・やっぱり受けたのは、ワザとだったか」
復活したシェルディアの言葉を聞いた影人は、その言葉が示した意味を理解し、そう呟いた。
「あら、今の言葉だけで理解したのね。ええ、あなたの言うように、あなたの攻撃を受けたのはワザとよ。その方が絶望すると思ったから。でも、その様子だとショックは受けていても絶望まではいっていないようね」
その呟きを聞いたシェルディアが少し意外そうな顔を浮かべた。そしてシェルディアは自分が影人の一撃をワザと受けた理由を述べると、少し首を傾げて影人を見つめた。
「・・・・・生きている限り、俺は戦い続けるだけだ。絶望する暇はないんでな」
光を失っていない目で、影人はそう言葉を紡ぐ。自分の渾身最大の一撃を受けて、シェルディアは何事もなく復活した。この時点で、影人の負けは確定したようなものだ。だが、だからといって絶望して何もしないという選択肢は影人にはなかった。
「そう、どこまでも精神の強い男ね。では、分かっているでしょうけど、容赦なくやらせてもらうわ。――星よ、1条の光となって降れ」
その言葉と同時に星空の星が1つ輝き、
「は・・・・・・・・?」
影人の体に降った。それは影人には知覚の出来ない速度だった。光となった星は、影人の右肩付近に大きな穴を空けた。
「ッ・・・・・!?」
途端、襲って来るは信じられない激痛。それだけではない。影人は自分の意識が、精神が凄まじく疲弊したのを感じた。どう言えばいいのだろうか。精神に多大なダメージを受けたような感じとでも言えばいいか。とにかく、この攻撃は少し奇妙さを感じるものだった。
「この星による攻撃は、肉体だけでなく精神をも削るもの。ゆえに、この攻撃を受け続けた者は最終的に精神が耐えられなくなり気を失うわ。まあ、ほとんどの者はその前に肉体によるダメージで死ぬのだけれどね。さて、スプリガン。あなたはどこまで耐えられるかしら。ちなみに言っておくと、この星の攻撃が出来る量は、この『世界』の夜空に瞬く全ての星よ。じゃあ、頑張ってね」
シェルディアはサラリとゾッとするような事を言うと、肉体による激痛と精神が削られた為に意識が朦朧とし始めた影人に向かって、パチリと右手を鳴らした。
「星よ、幾条もの群れとなって降れ」
星舞う夜空、その中の幾つかの星たちがキラリと輝く。それは、影人からしてみれば死の光以外の何者でもなかった。
(イ、イヴ・・・・・悪い、これで伝わってくれ・・・・・・俺は許可する・・・・・後は、頼ん――)
『は? おい影人いったい何の――!』
影人の意味不明な伝言に、イヴが声を上げる。しかし、時間はもう残されてはいなかった。
「がっ・・・・・」
幾条かの星が光となって影人の体を貫く。それは肉体に複数の穴を空けるだけではなく、影人の疲弊していた精神を容赦なく削っていった。
「っ・・・・・・・・・・」
そしてその攻撃によって、影人は自身の意識を暗闇に明け渡した。
影人が気を失う前に最後に見たのは、どこまでも超然と存在する絶対的なシェルディアの姿だった。




