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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
807/2051

第807話 絶対的強者(3)

「あなたはさっき、ゼルザディルムとロドルレイニの名を呼んだ。最初のようにトカゲと貶すわけでもなくね。変化とは言葉にも表れるもの。だから分かったのよ。それが根拠よ」

 シェルディアはそう答えると、影を纏った爪撃を放った。影を纏ったその一撃は、5条の可視できる黒撃こくげきとなり、影人を襲った。

「ッ・・・・・・・・!?」

 影人が驚いたのはシェルディアのその言葉か、シェルディアが振るった黒い爪撃か。果たしてそのどちらともか。それは影人自身にも分からない。ただ、このままでは影人は全身を切り裂かれる。それだけは避けなければならない。

「くそがッ・・・・・!」

 この距離では、シェルディアの爪撃が速すぎて回避する事が出来ない。ならば、影人に出来る事は防御する事のみ。幻影化は力を食い過ぎるので、やはり使えない。

 影人は仕方なく自分の前に障壁を展開した。1つでは心許なかったので2つ。二重の障壁だ。これならば何とかなるはず。影人はそう思った。

 しかし実際は、

「ぐっ・・・・・・!?」

 影を纏った爪撃は、二重の障壁を紙のように切り裂き、影人の体を深く傷つけた。もし、障壁がなかったら影人の体はバラバラになっていただろう。影人は攻撃を受けた後に咄嗟にそう思った。

「いい判断だわ。何かしなければあなたは即死していた」

 シェルディアは影人の体に刻まれた5条の爪撃の後を見ながらそう呟いた。影人は全身に切り裂かれた痛みを感じながら、何とか回復の力を行使し、今受けた傷を即座に回復した。だが、回復もそれなりの力は使う。闇の力の残量は、体感でもう2割5分ほどになったと影人は感じた。

(っ、イカれてやがる・・・・本当にイカれた強さだぜ。強いなんて言葉じゃ効かねえ。こいつの、シェルディアの強さは絶対的だ・・・・・・・・!)

 力の残量の事もそうだが、シェルディアと戦えば戦うほど分かる。その強さが。その規格外さが。シェルディアが強いなどという事は、とっくに分かっていたはずなのに、それでもなお、シェルディアは影人の想像の上を行く。

(どうする? どうやってこいつに勝つ? まだ観察が足りないか? いや、もうそこまで悠長な事は言ってられねえ。速攻でこいつに勝つビジョンを描かねえと・・・・・!)

 影人は冷や汗を流しながら、シェルディアを見つめた。いくら負の感情を燃やし続ける事で、力の残量を多少は誤魔化せると言っても、残量が3割を切っていてはいつまでも継戦する事は出来ない。つまり、影人は勝負を急がなくてはならないのだ。

 だが、シェルディアは勝負を焦って勝てる相手では決してない。影人はそのジレンマのようなものに陥っていた。

「あら、そんなに情熱的に見つめられては照れてしまうわ。まあ、私をいったいどうすれば斃せるのか必死に考えているのでしょうけど」

 冗談っぽく笑いながらシェルディアは影人にそう言ってきた。攻撃はしてこない。その意図がいったい何であるのか、詳細には影人には分からない。しかし、影人からすればその言葉はあまり気分が良くなるような言葉ではなかった。

「っ、余裕ってか・・・・? はっ、流石は化け物サマだな・・・・・どこまでも、俺を苛つかせやがる・・・・!」

 影人は苛立ちを込めた低い声でそう言いながら、シェルディアを睨んだ。圧倒的な力の差を感じさせられ、勝利のビジョンが未だ見えずに焦っているというこの状況。その中でのシェルディアの相変わらずの見透かすような言葉。それが苛立ちへと繋がる。

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