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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
806/2051

第806話 絶対的強者(2)

「速さは流石。でも、あなたはあまり剣という物を扱った事がないようね。あなたの剣はただ振るっているだけ。そこに洗練さは感じられないわ」

 シェルディアは影人の剣撃を時には避け、時には剣で受け止めながらそんな評価を下してきた。シェルディアのその評価は至極正しい。影人は剣術などを修めている人間ではない。ズブの剣の素人だ。シェルディアが指摘したように、影人はただスプリガンの身体能力と能力で剣を速く振るっているに過ぎない。

「・・・・・悪いが、化け物を殺すのに洗練さが必要とは俺は思わん」

 しかし、影人にとってシェルディアの指摘などどうでも良かった。そもそも、影人は剣士などではないし剣でシェルディアを殺そうとも思っていない。どうせ適当なところでこの()()()()()()()()は終わる。影人はそう思っていた。

「ふふっ、確かに言われてみればそうね。物語なんかで人間が化け物を殺すのは、洗練された剣よりも本能と感情赴くままに振るわれる獣の剣。その方がしっくり来るわ」

 影人の答えを聞いたシェルディアは笑みを浮かべながらそんな言葉を述べた。そして、シェルディアは変わらずに影人の剣撃を捌き続けると、こう言葉を続けた。

「あなたの剣は正にそれね。私を殺すという、ただその目的の為だけに振るわれている。でも、それだけではやはり私には届かない」

「ごちゃごちゃと、お前は黙って殺し合いができないのかよ・・・・!」

 双剣を振るいながらシェルディアの言葉に少し苛立った影人は、ついそんな言葉を漏らす。剣を捌き続けられるのはいいが、こうも余裕な態度を取られるとやはり苛立ちは募ってくる。

「ええ、出来ないわ。だってそんなもの、味気ないでしょ?」

 双剣を捌き続けていたシェルディアの剣がその動きを変え、時折り影人に反撃してくるようになった。その剣にはやはり、自分にはない鋭さというものが乗っていた。

「はっ、戦いに何を求めてやがる。俺たちがやっているのは、味気のない殺し合いのはずだ・・・・・・!」

 影人はシェルディアの剣撃を片手の剣で受け止めると、1度後方に飛びながら双剣をブーメランのようにシェルディアへと投擲した。

「そうかしら? 私は少なくとも、今はゼルザディルムとロドルレイニを斃したあなたに敬意を持って戦っているわ。戦いであろうと、殺し合いであろうとそこには思いがあるのが普通よ。本当に味気がない戦いなんて、私は少ないと思うけど」

 シェルディアは投擲された双剣を剣で弾くと、自身も血の剣を影人に向かって投擲してきた。影人は右手に『破壊』の力を纏わせると、その剣を掴み粉々に砕いた。

「あなたも、今はゼルザディルムとロドルレイニに対して何らかの思いを、敬意に似た思いを抱いているはずよ、スプリガン。敵であった彼らに対して。それは、戦いを通して生まれた思い。私は途中からあなたたちの戦いを観察できはしなかったけど、そんな戦いが味気のなかった戦いであるはずがないわ」

「っ、何を根拠に・・・・・!」

 シェルディアはそう言って、自身の右手の爪を伸ばした。爪による攻撃が来る。何度かその現象を見た影人はそう察する。シェルディアがすぐにその爪を振るい、空間を切り裂く一撃を放って来る。影人は身構えたが、しかし今度の攻撃は少しだけ違っていた。

 その違いとは、シェルディアの影だった。影はその一部分がシェルディアの右手に纏わりつくと、シェルディアの右手を黒く染めた。

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