第805話 絶対的強者(1)
「がっ・・・・・!?」
意趣返しとばかりにシェルディアに胸を刺された影人は、胸部に突如奔った灼熱が生じたかのような痛みに呻いた。1度心臓をフェリートに貫かれた影人には感覚的に分かるが、ナイフは心臓を貫通してはいない。心臓の端をギリギリ掠めただけだ。正直、まだ運が良かった。
(だがマズイ状況に変わりはない・・・・・・・! このレベルの傷はすぐに回復しないとヤバい・・・・! 俺は別に不死身じゃないんだからな・・・・・・・!)
影人は痛みに朦朧としてくる意識の中、自分の状況の事を考えると、渾身の力を以て右足でシェルディアを蹴った。その隙に胸に刺さっているナイフを左手で引き抜く。「ぐっ・・・・・!?」と呻き声が漏れる。再び激痛と胸部から激しく血が吹き出すが、構っている時間はない。影人はすぐに胸部の傷と、シェルディアに握り潰された左手首を回復させた。
「ふふっ、あなたも即死しない限りは、力が尽きない限りは死なないのよね。一種の擬似的不死とも言える。厄介といえば厄介ね」
影人に蹴られたシェルディアが自身の影を操作する。影は10本ほどに分裂し先が尖った形状に変化すると、影人に向かって伸びてきた。ちなみに、シェルディアの胸の傷はゼルザディルムとロドルレイニの超再生と同じように、既に回復していた。
「ふっ・・・・・!」
同じように、傷を回復し痛みから解放された影人は、シェルディアと同じように虚空から10本の鋲付きの鎖を呼び出した。
影人が呼び出した鎖と、シェルディアの10に分かれた影が激突し合う。そんな事はお構いなしに、シェルディアは一息で影人に近づき直すと、左の蹴りを放って来た。シェルディアの攻撃をまともに受ければどうなるか既に知っている影人は、その蹴りを回避する事しか出来ない。
「避けてばかりじゃどうにもならないわよ?」
影人が避ける事を今度は予想していたシェルディアは、途中で蹴りの軌道を変え地面へと戻した。そして、残っていた自身の影を棘のように変化させ、左足を貫かせた。
(ッ! 自傷行為・・・・・・! マズい、血の槍が来る!)
シェルディアの行為の意図をこれも既に知っている影人は、次に何が自分を襲って来るのか分かった。シェルディアの左足から多量の血が流れ出る。その飛び散った血は空中で1つの場所に集合し固まっていくと、1振りの真っ赤な剣へとその姿を変えた。そしてシェルディアはその剣を右手で握った。
「ッ!?」
今までの事から、てっきりシェルディアが血の武器として作る事が出来るのは血の槍だけだと、影人は勝手に思っていた。ゆえに、血の剣を見た影人は驚いたような表情を浮かべた。
「剣を握るのも随分と久しぶりね。腕は・・・・・かなり落ちていると思うけど」
自身が生み出した血の剣を握ったシェルディアは、その尋常ではない身体能力を生かして剣を乱雑に振るった。乱雑、と言っても本当に乱雑なわけではない。シェルディアの剣閃は一見乱雑に見えるだけで、その実は鋭く優雅なものであった。
「くっ・・・・・・!」
影人はその剣撃の嵐を何とか見極めながら、自身も両手に剣を創造した。いわゆる双剣形態だ。影人は双剣でシェルディアの剣撃を受け止めた。
「剣対決ね。いいわ、なら少しこれで戯れましょうか」
「・・・・・いいぜ。乗ってやるよ」
シェルディアは影人が双剣を創造したのを見て、クスリと笑った。別にわざわざその言葉に乗る必要は影人にはなかったが、影人は流れとシェルディアの剣の腕がどの程度のものか観察するためにも、その言葉に乗る事にした。
「シッ・・・・・・!」
影人はシェルディアの赤い剣を闇色の双剣で弾くと、双剣の手数の多さを利用して凄まじい剣の連撃を放った。影人の身体能力は、闇で強化され『加速』している。その連撃の速さはさっきのシェルディアの剣撃と同等のレベルだった。




