第80話 伝達(3)
「それは仕方がありませんね。ただし、怪我などはさせないでくださいよ? あなたの力ならばそれが出来るはずです」
そのような事態が起こる可能性は低いが、いざとなったときは影人も自衛をしなければならない。よって、ソレイユは条件付きではあるがそのことを許可した。
「それはわかってるよ。まあ、本当はそんな面倒くさいことになってほしくはないがな・・・・・・・・」
格好をつけてそんなことを言ったが、影人の本音はこれだった。基本、面倒くさがりの自分が、必要な戦闘以外をするというシチュエーションは面倒というほかない。
「そうですね・・・・・・・」
ソレイユも再度ため息をつきながら、心の底から影人に同意した。
「・・・・・とりあえず今日のことについては了解だ。もう話はないか? それなら俺ももう話すことはないから、お暇させてもらうが」
「ええ、私からはもうありません。あなたを地上に戻しましょう。・・・・・・・ああ、1つだけ伝え忘れていました。陽華と明夜は攻撃を受けても、あなたのことを信用していましたよ」
「っ・・・・・・!」
不意打ちのように、そんなことを聞かされた影人は、前髪の下の目を見開いた。
「・・・・・・そうか、別にどうでもいいが、相変わらずとんだお人好しだな」
押し殺したような声で影人はそう呟いた。
本当に自分にとってあの2人はどうでもいいのだ。自分があの2人を影から助けているのは、目の前の女神に押し付けられた仕事だから。ただそれだけ。
そう、それだけだ。
「・・・・・・・そうですか」
ソレイユは全てがわかっているような顔で、静かに微笑んだ。
そして、影人の体が光に包まれていく。転移が始まる合図だ。
「・・・・・・・・・言い忘れてたが、昨日はあいつらを転移させてくれてありがとな。お前が転移させてくれなかったら、あいつら危なかったからな」
影人は素直に昨日のことをソレイユに感謝した。これは昨日から言わねばならないと思っていたことだ。
「お気になさらず。――では、また会いましょう影人」
女神のような笑顔で、ソレイユは影人を見送った。
「さて、私も手紙をしたためなければなりませんね」
影人を見送った後、ソレイユは手紙を書くのに必要な机とイス、紙とペンを用意した。
今回は10人(4位と10位は日本人のため、スプリガンの存在を知っているだろうが、それでも知らせなければならない。それがラルバとの会談の結果であるからだ)という比較的少ない人数に情報を伝えるため、手紙という形式を取った。
サラサラと、各国の言語でそれぞれの手紙に同じ内容を書いていく。
スプリガンの存在。その力の情報など、ラルバが把握している範囲の事を嘘偽りなく書き込む。
「これくらいでいいでしょう・・・・・・」
封をしてできあがったのは計10通の手紙。後はこれを、各光導姫の元に転送するだけだ。といっても、住所などは個人情報のためソレイユも知らない。
ゆえに手紙を転送すれば本人に直接届くという便利な方法だ。一応、ソレイユも神なので神界ではそれくらいの権能はある。
「・・・・・・・・出来れば、影人のことを敵と認定しない子が多くありますように」
手紙には本人の意志ではないとはいえ、影人が無差別な攻撃を行ったことも記した。それは影人を敵と認定するのには十分な行為だ。
だが、それでもソレイユはそう願わずにはいられなかった。
あの少年にこれ以上つらい思いをしてほしくはない。
そんなソレイユの思いを乗せた10通の手紙は光に包まれ、地上の光導姫たちに届けられた。




