第799話 竜殺しの妖精(4)
「お前はよくやった。我は素直にお前を賞賛する。・・・・さらばだ。2竜の竜王と対等に戦いし者、スプリガンよ」
「死したあなたの魂に安息がある事を願います」
「・・・・・・・・」
2竜は既に事切れている怪人の胸部から、手を勢いよく引き抜いた。もう既に魂と命が失われた黒衣の怪人は、1歩2歩と後ろによろけると、仰向けに斃れた。
「・・・・・結局、殺してしまったな。まあ、分かり切っていた事ではあるが。手加減が出来る相手ではななかった」
「どちらかが死ぬか。これは本当の意味での戦いでした。手加減など、出来るはずがなかった」
ゼルザディルムとロドルレイニは斃れた怪人の姿を見つめながら、そう言葉を呟いた。シェルディアの命令はスプリガンを戦闘不能にすること。出来れば殺さないようにとの事だった。しかし、それはやはり不可能だった。こればかりは仕方がなかった。
「・・・・さて、夜の主のところに戻るか。一応、亡骸を抱えて」
「そうですね。それが証明となるでしょう」
ゼルザディルムとロドルレイニは斃れているスプリガンに近づこうと1歩を踏み出そうとした。
しかし、2竜がその1歩を刻む事はなかった。
なぜなら、
唐突に背後から何者かによって、背中から鳩尾の辺りを手で貫かれてしまったからだ。
「は・・・・・・・・・・・・・?」
「え・・・・・・・・・・・・・?」
自分たちの腹部付近から手が突き出ている。その余りに意味が分からない光景に、ゼルザディルムとロドルレイニは呆けたような声を漏らした。
「――まあ、やっぱりそこだよな。予想はついてたが。ありがとよ、お前らのおかげで確証が持てたぜ。だから、安心して殺せた」
声がした。それはいま自分たちが殺した男の声と同じだった。ゼルザディルムとロドルレイニは一体何が起きているのか理解できなかった。
ただ、反射的に2竜は顔を後ろへと向けた。するとそこにはやはり、
金の瞳に黒衣を纏った男、スプリガンの姿があった。
「な、なぜだ。き、貴様は確かに我らが今・・・・・・」
「い、いったい、何が起きて・・・・・・」
自分たちの後方にスプリガンの姿を確認したゼルザディルムとロドルレイニは、そんな言葉を漏らしていた。2竜からしてみればその言葉は当然のものだった。ゼルザディルムとロドルレイニは確かに今スプリガンを殺したはずだったのだから。
「・・・・・ま、ちょっとした仕掛けをしただけだ。前を見てみろよ。お前らが俺だと思って殺した奴の正体が分かるぜ」
影人はゼルザディルムとロドルレイニが万が一何かをしないか警戒しながら、2竜にそう言った。まあ、高密度の『破壊』の力で竜の弱点である心臓を貫き続けているので大丈夫だとは思うが。もしかしたら、先ほどの自分のような事もあるかもしれないので、影人は警戒をしただけだ。
「正体だと・・・・・?」
ロドルレイニが訝しげに目を細める。ロドルレイニとゼルザディルムは、影人の言葉通り首をゆっくりと再び前に向けた。そこにはスプリガンが斃れているはずだった。しかしそこにいたのは、
「なっ・・・・・・・・」
「これは・・・・・・・」
胸部を貫かれた等身大の闇色の人形だった。




