第798話 竜殺しの妖精(3)
だが、
「いいや、この戦い――」
「――勝ったのは私たちです」
その次の瞬間、ゼルザディルムとロドルレイニは笑みを浮かべると、胸を貫かれている事などお構いなしに、ゼルザディルムは左手に炎を纏わせ、ロドルレイニは右手に凍気を纏わせ、影人の胸部を貫手で穿った。
「がっ・・・・・!?」
影人の胸部に2つの穴が開く。2竜の燃える手と凍る右手は、影人の心臓を破壊し体を貫通していた。血が派手に周囲へと飛び散った。
「な・・・・何で・・・お・・・・・お前らの、弱点は・・・・・・そこの・・・・・はずじゃ・・・・」
影人が信じられないものを見るような目で自分の胸を見下ろし、次にゼルザディルムとロドルレイニにその顔を向ける。影人の今際の際の言葉を聞いた2竜は、空いていた手で自分たちの胸に突き刺さった剣を引き抜きながら、こう言葉を返した。
「残念ながら、お前のその予測は間違っている。お前は、我がロドルレイニの胸部への攻撃を助けたからそう考えたのだろうがな」
「ええ。どうやらあなたは私たち竜族に弱点があると考え、それを探っていた様子。確かに、我ら竜族も生物。弱点はあります。しかし、私たちの弱点はここにはない」
2竜は引き抜いた剣を念のために手で握り潰した。2竜の胸の刺し傷は、これまでの傷と同様にすぐに修復された。
「な、なら・・・・お前らの・・・・弱点は・・・・・・いったい・・・どこに・・・・・・・?」
2竜の言葉を聞いた影人が、数秒たってそんな言葉を漏らした。それは影人の最後の問いかけだった。もはや、この状態では闇の力で回復を使っても心臓は治せない。2竜の手が心臓を貫いた状態だからだ。この状態では心臓を修復できない。それはゼルザディルムとロドルレイニも分かっている。だから、2竜は影人が死ぬまで手を影人の体に突き刺しているのだ。
つまりスプリガンは、帰城影人はあともう少しで確実に死ぬ。それは確定事項だ。それは影人にも、ゼルザディルムとロドルレイニにも分かっていた。
「・・・・・いいだろう。お主は間違いなく我らと対等に戦った敵であり、勇気ある者。死にゆく土産に、最後に我らの弱点の位置を教えてやろう。いいな、ロドルレイニ」
「ええ、構いません。彼にはその資格があります」
ゼルザディルムがロドルレイニにそう確認を取る。その確認に、ロドルレイニは首を縦に振った。
「ならば知るがいい、スプリガンとやら。我ら竜族の弱点はただ1つ。それは心臓よ。竜の心臓。それだけが、我ら竜族の弱点」
「そして、その心臓の位置は――ここです」
ゼルザディルムの言葉に続くようにロドルレイニはそう言うと、左手で自分の肉体の真ん中――ちょうど鳩尾の辺りを指さした。
「我らの元の姿とこの姿で心臓の位置は多少異なるが、この姿の時はロドルレイニが示しているようにそこに心臓は位置している。この位置を剣で貫かれていれば、負けていたのは我らの方だった」
「・・・・普通は弱点といっても弱点にはなり得ないのですがね。竜の鱗はほとんどあらゆる攻撃を受け付けぬ絶対の鎧。私たちの鱗を貫く攻撃をして来たのは、シェルディアとあなただけです。つまり、私たちに傷をつけたのはあなたを入れて史上2者しかいない」
ゼルザディルムとロドルレイニが、死にゆく影人に向かってそう語る。2竜の言葉は心の底からのものだった。2竜はここまで自分たちを追い込んだ影人に対して、敬意を抱いていた。




