第796話 竜殺しの妖精(1)
「仕込みは・・・・・・こいつだけ先にやっとかないとな」
影人は爆発によって出来た僅かな時間を逃さずに、ゼルザディルムとロドルレイニに仕掛ける最後の攻めのために、ある準備をした。影人は右手に持っていた狙撃銃の形状を変化させ、闇色の小型の機械のようなものに作り変えた。そして、自分の半径1メートル程の短い距離に遮音フィールドを創造し、影人はその機械のようなものにある言葉を吹き込んだ。
「――。よし、これで仕込みは終わりだな」
影人はそう呟きその小型の機械のようなものを、外套の右ポケットに突っ込むと遮音フィールドを解除した。
(イヴ、力を練るのに後どれくらいかかる?)
影人は最後にイヴにそう質問する。影人のプラン通りに事が進んでも、実際にゼルザディルムとロドルレイニを殺す力が整っていなかったでは話にならないからだ。
『大体残り30秒ありゃいける。お前がどんなプラン考えてるのか、思考までは俺は読めないからあれだが、30秒くらいは流石に持つプランだよな?』
(ああ、お前の言う通り今から30秒は余裕で大丈夫だ。よし、じゃ全部のお膳立ては済んだな)
影人はイヴの答えに頷くと、自分の周囲に浮かんでいた残り2本の『破壊』の力を宿した剣を両手で掴んだ。
爆破の余波や爆風がようやく収まる。影人は自分からかなり離れた直線上の距離にいるゼルザディルムとロドルレイニの姿を確認すると、自ら2竜のいる場所目指して走り出した。
「さあ、竜殺しの妖精と相成ってやるか・・・・・・!」
妖精の名を持つ怪人は、小さく笑いそう呟いた。
「ッ、いったいどういう風の吹き回しだ・・・・・?」
爆風が収まり視界がクリアになったゼルザディルムは、突如として自分たちの方に近づいてくる影人を見てその顔を疑問に染めた。
「わかりませんね・・・・・しかし、彼は無策で突っ込んでくるような人物でないという事だけは確か。気を張るぞ、ゼルザディルム。彼には何か策がある」
ロドルレイニがその目を警戒から細める。そしてロドルレイニはゼルザディルムにこう言葉を投げかけた。
「何にせよ、これは私たちが望んでいた展開。こちらからも近づくぞ」
「まあ、そうだな。油断だけしないでおくか」
ロドルレイニとゼルザディルムはそう言葉を交わし合うと、自分たちも影人の方へと向かって駆け始めた。
2竜と1人の人間は互いに近づき合う。そして、お互いの距離が100メートルを切ったところで、ロドルレイニはこう言葉を紡いだ。
「氷よ、世界を閉ざせ」
ロドルレイニがそう言葉を発すると、地面に氷が奔り始めた。氷は円形に奔りロドルレイニとゼルザディルム、そして影人をその内に止めると、空中へと登り始めた。
氷は弧を描いて頂点部分へと収束し、やがて完全にドーム状に2竜と影人がいる空間を覆った。
(ッ、氷のドーム・・・・・・完全にもう俺を逃がさない気だな)
ロドルレイニが作った氷のドームの意図を影人は正しく理解していた。だが構うものではない。影人はもう逃げはしないのだから。
「ほう。なら、我もやっておくか。炎よ、地を舐めろ」
2竜と影人の距離が50メートルを切った辺りで、ゼルザディルムがそう言葉を唱える。すると、ロドルレイニの氷と同じように炎が地を舐め、やがて円形になり激しく燃え盛った。意図はロドルレイニの氷のドームと同じだろうが、こちらはドームとは違い天を覆うという程ではない。こちらはさしずめ、炎のリングといったところか。




