第790話 竜の弱点を探せ1(3)
「ッ・・・・・・!」
ゼルザディルムと共に振り返ったロドルレイニは、ゼルザディルムの額が弾丸に貫かれた光景を真横から見て少し驚いたような表情を浮かべた。そして、ロドルレイニはその弾丸が飛来して来た先――振り返ったゼルザディルムとロドルレイニから見た左斜め前方――に、その赤い眼を向けた。
「・・・・・よし、とりあえず目標の額に着弾したぜ」
ゼルザディルムとロドルレイニから遥かに離れたその先には、右手に闇色の狙撃銃を構えた黒衣の男の姿があった。スプリガン、もとい影人である。
『くくっ、てめえにしてはナイスショットだな。まあ、俺の力で軌道は固定したからてめえは「破壊」の力を付与した弾丸を、そのスコープから覗いてぶっ放すだけの簡単さだったわけだが』
(ああ、人生初の狙撃はお前のおかげで大成功だぜイヴ。狙撃初心者の俺がこんだけ離れた位置から狙撃に成功する事が出来たのは、間違いなくお前のおかげだ)
影人は創造した狙撃銃を下ろすと、そう語りかけてきたイヴに内心そんな言葉を返した。ここから影人が元いた場所、現在ゼルザディルムとロドルレイニがいる場所までは、ゆうに1キロはあるはずだ。
(でもまあ、あいつが振り向くとは思わなかったけどな。発砲音はちゃんとお前の力で消したのに、空気の揺らぎを感じて振り向きやがった。ま、頭ぶち抜いた事に変わりはないからいいけどよ)
影人がゼルザディルムとロドルレイニのいる場所からこの場所に一瞬にして移動出来たのは、影人が姿を消す前に吸い込まれた闇の渦のようなものからも分かる通り、転移による力だ。影人はゼルザディルムとロドルレイニが向かって来る前に、自身の左前方、つまり今いるこの場所を視界に収めた。影人の転移は視界に映る場所ならば、どこにでも転移できる。ゆえに影人は、あの時ゼルザディルムとロドルレイニの背後に位置していたこの場所に転移したのだ。もちろん距離も出来る限り取れるように、かなり離れた位置に設定していた。
ゼルザディルムとロドルレイニは影人の転移を直接は見ていない。そのため、2竜にとって転移は実質的に初見の技だ。いきなり影人が姿を消せば、そこに若干の戸惑いが生じる。しかも、影人が死角に転移したのならば、その戸惑いは尚更のものになる。
影人はその戸惑いによって生み出される僅かな時間を見逃さなかった。この転移から狙撃のプランは先ほど観察していた時に考えていた。だから影人は転移してすぐに狙撃銃を創造し、そこから発射する弾丸に『破壊』の力を付与し、弾道軌道を固定し、発砲音を消し、すぐさまゼルザディルムを狙撃する事に成功したのだ。
ちなみに、影人がゼルザディルムの頭部を狙ったのは短絡的に考えてそこが弱点ではないかと思ったからだ。およそ生物というものは、一部の例外を除いて頭部は弱点に換算される。それはそこに多くの場合、脳があるからだ。頭蓋骨という強固な骨に守られているその部位は、生物にとってのまごう事なき弱点。ゆえに影人は、竜の弱点があるならば頭部ではないかと考えた。
さらに付け加えておくと、ゼルザディルムの方を狙った理由に深い意味はない。別に影人はロドルレイニの方を狙ってもよかった。ロドルレイニも竜という種族に変わりはない。ならば弱点は2竜とも共通しているはずだ。影人がゼルザディルムを狙った理由は、スコープを覗いた時にゼルザディルムの方が先に視界に入ったからという、単調極まる理由に過ぎない。




