第79話 伝達(2)
自分の体が何か、もしくは誰かに操られたこと。なぜか力を使うのに言葉を必要としなかったこと。闇の力の様々な応用。
影人の話を聞き終えたソレイユは、顎に手を当てた思案のポーズを取りながら情報を整理した。
「なるほど・・・・・・・・意識と記憶はあるが、あなたの体は何か・何者かに操られていたと。つまり結界を完全に破壊したあの攻撃はあなたの意志ではなかったという事ですね?」
「ああ。ただ、不思議なのは結界を壊そうとしたプランは一緒なんだよな。元々、俺はレイゼロールに隙を作って、あの方法で結界を壊そうと思ってた。そうなると、もちろん昨日みたいにあいつらに攻撃は当たりそうになるが、そこは俺が闇の力であいつらを守ろうと考えてたしな」
少し補足ぎみの疑問を加えて、影人はソレイユの質問に答えた。
「そうですか、そこも不思議ではありますね。まあ不思議と言えば全てが不思議なのですが・・・・・・」
不思議というよりはイレギュラーと言い換えてもいいだろう。イレギュラーというなら、影人の存在そのものがイレギュラーだが、今回の事態はそれとは毛色が違う。
「さっきも言ったが、唯一わかったのは俺の中で何かが蠢いた気配がしたことだけだ。それが何なのかは俺にも分からんが、それしか俺には断言できない」
唐突にその何かが自分の中で蠢いた。それが全てのきっかけだったと影人は記憶している。それは自分にしかわからない感覚だが、蠢いたというのが1番しっくり来た感覚なのだ。
「・・・・・・・とりあえず、今はそのことは置いておきましょう。あまりにも分からないことが多すぎます。それより問題なのは、昨日のような事がまた起こる可能性があるかどうかです」
そう、問題なのは昨日の影人の「暴走」のような事態がこれからも起こるのかということだ。もし、昨日のような事が起これば、影人が守護しなければいけない存在――陽華と明夜にも危害が及ぶ可能性が出てくる。そんなことが起こってしまえば、本末転倒もいいところだ。
「そりゃそうなんだが・・・・・・・そこは正直わからん。一応、俺も変身した時に気をつけては見るが、それくらいしか出来ることはないな」
ソレイユの言わんとしていることは影人にも理解できるが、いかんせん、それは自分にもわからないのだ。
「ですよね・・・・・・・すみません影人。なにぶん、私もそのような事態を聞くのは初めてのもので、力になれそうにありません・・・・・・・」
影人の答えを聞いたソレイユは、はあとため息をついてそう言った。
肝心な時に役に立たない自分が嫌になるが、ここで見栄を張っても何にもならない。ソレイユは素直に自分は力になれないことを影人に告げた。
「そこは気にするなよ。つーか、お前が責任感じるようなことじゃないだろ?」
「いいえ、私があなたに与えた力です。ならば私の責任ですよ」
それが当然とばかりの表情で、断言したソレイユに、影人は心底この女神は真面目なんだなと思い知った。
(こいつのこんなところが、光導姫に敬われる理由の1つなのかもな・・・・・・)
柄にもなく、ソレイユにそんな感想を覚えた影人は、そんな自分に少し羞恥を感じ、適当に誤魔化そうとした。
「ま、真面目なこったな・・・・・・・そういうわけで俺の話は終わりだ。ああ、後――」
少しだけ口角を上げながら、影人は不敵な表情を浮かべた。
「もし、俺が敵と認定されて光導姫や守護者と戦うことがあるなら、俺はそっちの方がやりやすいね。できるだけ戦わないようにはするが、戦わざるを得なくなったら、俺も応戦はするぜ。それでいいか?」




