第786話 人竜との死闘(3)
「鎧か。貴様の力というのは器用だな。先ほどから見ている限り、どうやら闇そのものを扱っているようだが・・・・・」
「その力、興味深いですね。しかし、今は戦いの中。私たちがすべき事は、ただ力を振るう事のみです」
ゼルザディルムとロドルレイニは『黒騎士、闇の衣』(クソダサい)形態の影人を見てそう呟くと、掲げていた手を下げた。
「氷よ、疾れ」
ロドルレイニが左手を無造作に振るうと、ロドルレイニの周囲の地面から氷が出現し、その氷は複数の竜の頭部に変化しながら影人に襲い掛かってきた。
「炎よ、疾れ」
ロドルレイニに合わせるように、ゼルザディルムも自身の右手を振るった。するとゼルザディルムの周囲の地面から炎が吹き出し、その炎はロドルレイニのものと同じく、複数の竜の頭部に変化した。炎の竜たちも、当然影人に向かってその灼熱の顎を開きながら襲い掛かって来る。
(ちっ、残りの力の残量はだいたい6割。あいつらを斃す時に確定で1割は持っていかれるから、あんまり無駄に力は使いたくねえが、仕方ねえか)
襲い掛かって来る炎と氷の竜たちを迎撃するため、影人も自分の周囲から黒炎の竜と黒氷の竜の頭部を複数呼び出した。依然、炎の雨と氷の雷は降り続けているので、鎧はまだ解除しない。
ゼルザディルムの炎の竜とロドルレイニの氷の竜に、影人の黒炎と黒氷の竜が向かっていく。炎の竜には黒氷の竜が、氷の竜には黒炎の竜が向かい、それらの竜たちは2竜と影人の間の空間で激突し、やがては相殺し合い、爆発的な風を周囲に撒き散らした。
「ッ・・・・・!」
その風の爆発とでも言うものを受けた影人は、踏ん張り切る事も出来ず後方へと吹き飛ばされる。吹き飛ばさている最中、運悪く氷の雷が影人の体を打ったが、『黒騎士、闇の衣』(やっぱりクソダサい)がその攻撃から影人の体を守ってくれた。
(・・・・・・・・粗方人間形態のあいつらの事は分かってきたな。正直、普通にクソ強い。というか、あいつら1体でもドン引きするくらい最強なのに何で2体同時に相手しなきゃならねえんだよ! 正々堂々戦うなら2対1で俺に群がってくるんじゃねえ!)
吹き飛ばされ地面の土を抉りながら着地した影人はそんな事を思った。影人は人間形態のゼルザディルムとロドルレイニの攻撃やスピードをその身で体感し、2竜の事を観察していた。そこから分かった事は、人間形態のゼルザディルムとロドルレイニが今まで出会った事のないレベルでの圧倒的強者という事だ。1体でもレイゼロールと同等かそれ以上だというのに、そんな敵が2対同時に襲って来る。もしかしなくとも、影人は過去1番で最も危機に瀕しているかもしれない。
(クソッ、俺はシェルディアの奴とまた戦わなきゃならないってのにこの戦い、勝つイメージが全く湧いてこねえ・・・・・・)
影人が心の中で考えている戦いとは、このゼルザディルムとロドルレイニの戦いだけではない。その後のシェルディアとの戦いを含めた、一連の戦いの事だ。別に弱気になったとかそういうわけでもない。ただ現在の状況とこれからの状況を考えた時、どうすれば自分はこの2竜を殺し、シェルディアを殺せるか、冷静に考えてその状況をどう演出できるか想像できないだけだ。




