第784話 人竜との死闘(1)
「クソッタレが・・・・・・・!」
自分に向かって降り注ぐ赤と白の破滅。影人はすぐに闇の力で全身のダメージを回復させると、フルスピードでその場から逃げ出した。間に合うかどうか正直分からなかったが逃げなければ死ぬ。影人は半ば無我夢中に足を動かした。
すると影人が駆け出した直後、影人の後方から全てを焦がすような炎と全てを凍てつかせる氷の圧が大気を揺らした。影人は後方から襲い来る地獄に振り返らずに駆け続け、やがて安全圏に出ると荒く息を吐いて後方を振り返った。
そこには影人が予想していた通りの光景が広がっていた。最初のブレスによる攻撃の時と同じだ。地上に広がるは氷と炎の地獄。まともにこの攻撃を受けていれば、今ごろ影人は回復する暇もなく即死していただろう。
(危ねえ、まさか人間形態でもブレス攻撃が出来るとはな。完全に誤算だったぜ・・・・・・・・どうやら、俺の最初の見当は大いに外れてたみたいだな)
影人は人間形態に姿を変えたゼルザディルムとロドルレイニの強さを見誤っていた。竜形態の時の攻撃力と迎撃力が低下したなんてとんでもない。2竜のそれらの力は竜形態の時とほとんど変わっていない。
(それでいてスピードが爆上がりして小回りも効くと来てやがる。耐久力だけは下がってるのは間違いないだろうが・・・・・・・これなら竜形態の時の方が圧倒的にマシだぜ・・・・・)
今更ながら、影人は人間形態の竜の強さを理解した。デメリットだらけだと思っていたがそんな事はなく、むしろスピードというメリットを獲得した事で厄介さと強さは竜形態の時を上回っているように感じられる。
「ほう、やはり生きていたか。全身の骨を粉微塵に砕いてやったというのに、打たれ強い奴よ。いや、我らと同じように即座に肉体を修復できるのか? ふっ、貴様も大概化け物よな」
「夜の主の敵たり得る者が化け物以外のはずはない。考えれば、最初から分かる事でしたね」
影人が思考を巡らせていると、前方上空からそんな声が降ってきた。影人が声のした方向を見上げると、そこには案の定ゼルザディルムとロドルレイニがいた。
「・・・・・・よくもまあ、俺の全身を綺麗にくまなくボコってくれやがったな。てめえらのせいで体が1回紙みたいにペラペラになっちまったじゃねえか」
影人は2竜をその金の瞳で睨め付けながら恨み言を飛ばした。これは互いの命を賭けた戦いである事はもちろん影人も理解しているが、さすがにあれだけエグい目にあえば筋違いといえど恨み言の1つも言いたくなる。
「ふっ、そんな軽口を取れるならばまだまだ元気よの。それでこそ張り合いがあるというものよ」
ゼルザディルムが超然たる笑みを浮かべる。ゼルザディルムは右手を天に向かって掲げた。
「その減らず口、いつまで続くか見物ですね」
ロドルレイニも微笑を浮かべ、左手を天に掲げた。何か攻撃が来る。影人は2竜の動きを見て身構えた。
「慟哭し哭け、天よ。炎の雨を降らせろ」
「軋み穿て、天よ。氷の雷を降らせろ」
2竜がそう言葉を唱えると、2竜の遥か上空に空を覆うような巨大な方陣が2つ重なり合い展開した。
すると、空から赤い燃えた雨が、氷の雷が無作為に降り注いできた。




