第781話 人竜の力(3)
「ッ・・・・・!?」
影人は反射的に息を呑んだ。影人はいま眼を闇で強化している。だから分かる。2竜は消えたわけではない。消えたと錯覚する程の超スピードで影人に距離を詰めてきたのだ。
(体を闇で強化したレイゼロールと今の俺と殆ど同じスピードじゃねえか! いくらなんでも、いきなり速くなりすぎだろ・・・・・!)
竜形態の時よりも素早くなる事は分かっていたが、まさかここまでとは。影人は人間形態のゼルザディルムとロドルレイニの速さに驚愕しつつも、空を蹴りバックステップで2竜の攻撃を回避した。
「ほう、やはり素速いな。いや、素速いだけでない。その反応速度、それも異常に速いな。つくづく、大した者よ」
影人がバックステップをした瞬間に、いま影人がいた位置にゼルザディルムとロドルレイニの右手が重なる。2竜が手を振り抜いた瞬間、シュゴッと風を裂いたような音が聞こえた。2竜の攻撃の速度が音速に至っている証拠だ。
「ふっ、それでこそ倒し甲斐があるというもの!」
バックステップで回避した影人に向かって、ロドルレイニが気力に溢れた笑みを浮かべながら、左手を大きく振るった。すると、そこから不可視の斬撃状の衝撃波が飛び出した。
「チッ・・・・!」
空気の揺らぎと闇で強化した眼でその攻撃を感じ取った影人は、右足を蹴り上げるように振るった。すると影人が足を蹴り上げた軌跡から、ロドルレイニの斬撃状の衝撃波と同じようなものが発生した。こちらはロドルレイニの不可視の透明の衝撃波とは違い闇色の衝撃波だった。ロドルレイニが放った衝撃波と影人が放った衝撃波はぶつかり合いやがて相殺された。
「はははははッ! いざやよしッ!」
ゼルザディルムが高笑いをしながら再び影人に肉薄する。ゼルザディルムが右足を振るう。影人は左手に『硬化』を掛け、あえてその蹴りを左手で受けた。どれ程の威力か確かめたかったからだ。
「ぐっ・・・・・・・!?」
だが、影人はすぐに自分のその判断を後悔した。なぜならば、ゼルザディルムの蹴りは尋常ではなく重くその威力もただの蹴りというには高すぎるものだったからだ。腕を硬化させたというのにその衝撃は中まで響き、影人の左上腕部の骨はベキリと派手な音を立て折れてしまった。しかも左腕が折れただけでなく、影人はその蹴りの威力によって遥か後方の宙へと飛ばされてしまった。
(ちくしょうが何て蹴りだよッ! 『硬化』を貫通させて腕の骨を折りやがった・・・・・! しかも蹴りを受け止めたってのにこの吹き飛ばされ方。人間形態だってのに、イカれた力してやがる・・・・・・!)
吹き飛ばされている間に影人は即座に左腕に闇による治癒の力を使用した。先ほどのシェルディアからもらった蹴りによるダメージといい、今日はよく骨が折れる日だ。
「逃がさんぞ。このまま烈火の如き猛攻を仕掛けてくれる!」
「氷河の如き侵攻を味わいなさい!」
吹き飛んだ影人に向かってゼルザディルムとロドルレイニが追い縋って来る。竜形態の時では考えられなかった超速のスピードを以て一瞬で影人に近づいてきた2竜は、その肉体から拳や蹴りによる連撃を放ってきた。




