第780話 人竜の力(2)
「・・・・・はっ、確かに驚いたぜ。まさか、わざわざ小さくなってくれるとはよ。確かにその形態なら素速さは上がり小回りも効くだろう。・・・・・・・・だが、利点を捨てすぎたな」
人間に変化した2竜の姿に少しの間放心していた影人だったが、いつも通りの調子に戻るとそう言葉を放った。最初こそ驚愕した。だが、ゼルザディルムとロドルレイニが人間に変身したのは、冷静に考えれば影人にとってメリットが大いにある。
(気づいていないだろうが、その姿になったのは失敗だぜ竜ども。てめえらが俺と同じサイズになってくれたおかげで、殺しやすくなったぜ)
影人は内心そう呟き笑みを浮かべた。人間形態になってもおそらく超再生は使えるだろう。皮膚の硬さも竜形態の時と同じだろう。ゆえに、影人がゼルザディルムとロドルレイニを『破壊』の力を使用し、一撃で殺さなくてはいけない事に変わりはない。だが、殺すのに必要な火力は大幅に下がった。
(実は竜形態のこいつらを殺すのに1番の問題は、竜の巨体を一撃で殺し切るのに必要な火力だった。単純にあれだけデカイ巨体だ。耐久力もデカイぶん凄まじい。弱点がまだ分からない以上、俺はあの巨体の竜の全身を一撃で砕き壊さなければならなかった)
もちろん、それ程の一撃を繰り出そうと思えば、影人はそれ相応の時間と力を消費しなければならない。しかも当然、それだけ強力な一撃を放つには隙も大きい。更に言うならば、それを影人は2回、確実に成功させねばならなかった。でなければ、力の残量の問題や敵の警戒の問題があるからだ。
(俺の力の残量は、大体残り7割って感じだ。こいつらを一撃で殺し切るのには、大体その2割の力を割かなきゃならないと覚悟してたが・・・・・嬉しい誤算だぜ。これなら1割だけで済みそうだからな)
以上のような理由から、影人はゼルザディルムとロドルレイニが人間の姿になった事にメリットを感じ、逆に歓迎したのだった。人間サイズならば、使う力の量も『破壊』の力を練る時間も抑えられる。
そして、実はメリットは他にもあった。それは竜の体から繰り出される攻撃の数々がなくなったという事だ。大きな顎による噛みつきも、前足による引っ掻きも、尻尾による薙ぎ払いも、炎や氷の吐息も、あの斥力を発生させる雄叫びも、ゼルザディルムとロドルレイニは繰り出せない。なぜならば、それらの攻撃は竜の肉体ありきの攻撃方法だからだ。
「正直、今のお前らに負ける未来は見えねえな。速ささえあれば、俺に勝てるとでも思ったか? だとしたら・・・・・・・あんたら、俺を舐めすぎだ」
煽るつもりはなかった。影人はただ、純然たる事実を述べただけ。それが、影人の心からの思いであった。
「ふむ・・・・・どうやら、貴様は何か勘違いをしているようだな」
「むしろその逆です。あなたにこの姿を晒したのは――あなたに確実に勝つためですよ」
「おう――その通りよ」
瞬間、ロドルレイニとゼルザディルムの姿が消えた。
そして気がつけば、ゼルザディルムとロドルレイニは影人の両隣に出現しており、それぞれ影人に向かって鉤爪状に曲げた右手を突き出していた。




