第775話 竜との戦い(1)
『行くぞ、スプリガンとやら。かつての黒竜の王の力、存分にその身で味わえ!』
ゼルザディルムが羽ばたいた。その羽ばたきだけで周囲には暴風が吹き荒れる。影人は帽子を押さえながら何とかその風に耐える。
『燃える岩石よ、空より落ちろ!』
ゼルザディルムがそう唱えると、ゼルザディルムの周囲の空に赤い方陣のようなものが複数出現し、そこから溶岩弾のような燃えた岩が出てきた。大きさは端的に言ってかなりデカい。軽く500キログラムを超えているだろう。その溶岩弾の大群が空から降り注ぐ光景は、まるで流星群のようだ。
(無茶苦茶な攻撃しやがるなおいッ・・・・・・・・! 流石ドラゴン。スケールがデカいぜ・・・・!)
灼熱の流星群。これを避け切るのはおそらく至難の技だろう。地上で避けようと思えば、溶岩弾が着弾した余波が重なり合う。ゆえに地上で避けるのは、あまり得策とは言えない。
「はっ、なら俺から向かって行ってやるよ」
影人は唇の端を軽く上げながらそう呟くと、地を蹴り再び空へと駆け上がった。降って来る溶岩弾に自ら突っ込んでいく形は、先ほどのシェルディアの血の槍の大群の事を思い出させるが、今回は無理に破壊する必要はない。なぜなら、溶岩弾は現状影人が浮いているというのに、追尾してこないからだ。追尾して来ないなら、破壊する必要はない。まあ、その代わり地上では溶岩弾が次々に着弾し、この世の終わりのような光景を展開しているが。
(本当ならもう少しこいつらの手札を見てみたかったが、こいつらはあくまであの化け物の攻撃手段の1つだ。俺が真に斃すべき敵はシェルディア。こいつらに時間をかけ過ぎるわけにもいかねえ。だから、そろそろ本格的に攻撃するぜ)
影人は溶岩弾を縫うように回避し、宙に浮かぶゼルザディルムへと向かっていった。まだ竜たちがどのような攻撃・迎撃手段を持っているかわからないが、影人はゼルザディルムとロドルレイニを倒すべく攻めなければならない。そのため、竜たちが小回りが効かないであろう近距離で戦おうと、影人は考えていた。
『ほう、向かってくるか。この燃える岩石を掻い潜って。見かけによらず肝が据わっているな』
ゼルザディルムは自分に向かって来る影人を見て、どこか面白そうにそう言った。その態度に、影人が近づいて来る事への焦りや恐れといったものは感じられない。舐めてくれる、と影人は少しだけ苛立った。
「その余裕、俺が崩してやるよ・・・・・!」
影人はそう呟きながら、自分の周囲に凍気を纏った20の闇色の剣を創造した。そして、影人はその20の剣をゼルザディルムへと放った。20の氷の力を纏った剣がゼルザディルムへと近づき、360度それぞれの方向から黒竜に襲い掛かった。
だが、
『ふっ、無駄だ。竜族の鱗はおよそ全ての攻撃を通さん。その程度の攻撃では、我には傷1つつかんぞ?』
20の剣がゼルザディルムを貫く事はなく、剣は全て硬すぎる金属に当たったように、ガキンッ! と音を立て弾かれてしまった。




