第773話 2体のドラゴン(3)
『さて、まずはご挨拶。合わせろよ、白竜の』
『なぜ私が貴様に合わせなければならない。だが、仕方がない。今だけは合わせてやる』
ゼルザディルムが口を大きく開ける。同じようにロドルレイニもその顎を開く。黒竜の方、ゼルザディルムの口には炎が渦巻いていき、白竜の方、ロドルレイニの方には氷が渦巻いている。それを見た影人は嫌な予感がしたので、自分の後ろに闇の渦のようなものを事前に創造していた。
次の瞬間、全てを燃やし尽くす灼熱の炎の吐息と、全てを凍りつかせる極寒の氷の吐息がゼルザディルムとロドルレイニの口から放たれた。その攻撃を事前に予想していた影人は、自分の背後の闇の渦に倒れ込むように入るとその姿を消した。だが、ゼルザディルムとロドルレイニは自分が放った炎と氷の吐息のせいで、影人が消えた事を確認出来なかった。
数瞬まで影人がいた位置を、炎と氷が蹂躙する。影人がいた場所を中心に、直径50メートルほどの距離は一種の氷炎地獄と化していた。
『ん? 我の炎で骨も残らずに燃え散ったか? だとしたら、他愛のない事この上ないが・・・・・・』
『所詮は矮小なる存在。この程度でしょう。まあ、結果としてはやはり殺してしまいましたが、許してもらいますよシェルディア』
ゼルザディルムとロドルレイニは影人が死んだと思っているのか、そんな言葉を思念で発した。2体のドラゴンの言葉を聞いたシェルディアは、首を横に振りながら2体にこう言葉を返した。
「残念だけど、この程度で彼が死んだとは思えないわ。彼は私の3000本の造血武器を全てその身1つで破壊した人物よ」
『! 何と。夜の主の血によって作られた武器を破壊したというのか。しかもそれ程の数を。あれには我も苦しめられ、遂には破壊できなかったというのに・・・・・』
『にわかには信じられないですね・・・・・・・ですが、我らの攻撃によってこの世界から消えたのでないとすると、あの矮小なる存在はいったいどこへ・・・・・』
ゼルザディルムとロドルレイニはそれぞれそんな反応を示した。2体はどちらもシェルディアと戦った事がある。その戦いの結果、2体の竜はシェルディアに敗北し殺され、今シェルディアの『世界』の能力によってこの場に存在しているのだ。
だから、2体の竜はシェルディアの造血武器がどれ程の脅威か知っている。決して壊れず、目標に食らいつくまで追尾をやめる事はない恐怖の武器。その大群をあのスプリガンなる者は全て破壊したという。ゼルザディルムとロドルレイニはその事実に驚愕していた。
「そうね、見える範囲にいない。後ろに気配も感じないとなるならば、予想できる場所は・・・・・・・・・遥か上空かしら?」
『『ッ・・・・』』
シェルディアが上空を見上げる。その仕草に釣られるように、ゼルザディルムとロドルレイニも満点の星輝く夜空を見上げる。するとそこには――
「・・・・・チッ、気付きやがったか」
真紅の満月のぼんやりとした光に照らされる影人が浮いていた。そして影人は自分の両隣に、ドラゴンたちを貫けるような巨大な2本の槍を創造していた。
「しゃあねえ。気づかない内にあのドラゴンどもにこいつをぶち込んでやるつもりだったが・・・・・・・行けよ!」
影人は巨大な2本の槍をゼルザディルムとロドルレイニ目掛けて投下した。2本の槍はまるで隕石のように2体のドラゴン目掛けて降っていく。
『ムゥ、こいつは避けないとちとまずいな』
『ふん、黒竜の王である者が随分と弱気だな、ゼルザディルム。あの程度の槍、この私が凍てつかせ砕いてあげましょう・・・・・・・・!』
避けようとするゼルザディルムとは違って、ロドルレイニは影人が降らした槍を撃破しようと再び口に氷を渦巻かせた。全てを凍てつかせ砕く極寒のブレス。ロドルレイニはそれを収束させ、線状にすると氷のブレスならぬ、氷のレーザーを上空に放った。
影人が投下した2本の巨大な槍の内の1本がロドルレイニの氷のレーザーと激突した。




