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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第770話 極限のスプリガン(4)

 破壊した槍の数が2700を超える。残りは300本。影人の体を擦り抉る傷は更に増える。それでも影人は拳を握り、足を動かし続ける。

 破壊した槍の数が2800を超える。残りは200本。既に全身が傷だらけになり、影人が体を動かすたびに血が宙に舞うが、まだ影人は止まらない。

 破壊した槍の数が2900を超える。残りは100本。もはや傷がない箇所がないくらいに、影人の体も外套もボロボロだ。黒い外套には影人の血がかなり染みていて、少し重く感じる。体も精神も、とっくのとっくに限界を超えているが、それを意志の力だけでねじ伏せながら、影人はただ血の槍を破壊する。

 そして、遂に

「こいつで・・・・終いだッ!」

 影人がそう叫びながら、最後の1本を右手で殴った。『破壊』の力が宿った拳に殴られた血の槍は、砕け壊れ散った。もう血の槍はない。影人はおよそ3000本全ての槍を破壊し尽くした。

「はあ、はあ、はあ・・・・・・・クソッタレが・・・・」

 満身創痍になりながら、影人は荒く呼吸を繰り返す。そして、影人は全身の傷を闇の力で治癒させると、金の瞳をシェルディアへと向けた。

「はっ、これがてめえの本気の攻撃かよ。だとしたら残念だったな・・・・!」 

 3000の血の槍を破壊するのに掛かった時間は、体感時間にしておよそ100秒と少し。現実時間にして約20秒。影人は強気な笑みを浮かべながら、シェルディアにそう言った。正直に言えば、今にも倒れそうなほどに体力を消費しているが、まだ戦いが終わったわけではない。影人はただ、シェルディアの攻撃を凌いだに過ぎないのだから。

「ふふっ、あははははははッ! あなた凄いわね! まさかあの数の血の槍を全部殴り蹴って破壊するなんて。無茶苦茶だわ。今まで私と戦った誰も、そんな方法であの攻撃をどうにかした者はいないわ」

 血の槍の大群の攻撃を凌いだ影人を見たシェルディアは、本当に可笑しそうに笑った。それほどまでに、影人のやり方は無茶苦茶だったからだ。

「流石は謎の怪人ね。出し惜しみをしたわけでは決してなかったけど、あなたにはそれでも足りなかった。なら、こういうのはどうかしら? スプリガン、あなたに私の『世界』の能力の一端を見せましょう」

 シェルディアはそう言葉を述べると、右手を地面に向けた。今度はいったい何が来る。影人が油断なくシェルディアを見つめていると、シェルディアは厳かにこう言葉を紡いだ。

「夜の主の名の下に命ずる。我のしもべとなり蘇れ、いにしえの黒竜の王、古の白竜の王。其がモノたちの名は、ゼルザディルム、ロドルレイニ」

 シェルディアが言葉を唱えると、ある変化が起きた。シェルディアの左斜め前方と右斜め前方の地面から、墓石のようなものが現れたのだ。墓石には、影人には読めない文字が刻んであった。

 そしてその数秒後、2つの墓石の前の地面が隆起し、その下から()()()()()が地面の下から地上へと這い上がって来た。

(ッ!? お、おい、嘘だろ・・・・・・!? マジで言ってんのかよ・・・・・・・・・!)

 這い上がって来たモノの姿を見た、いや見上げた影人は驚愕した。いや、影人も目の前の()()と同じようなモノは創造した事がある。この間のイギリスのレイゼロール戦の時だ。

 だが、目の前に現れた2体のソレは、影人の作り物とは明らかに違った。その迫力が、そのリアリティが。極め付けは、ソレが発する圧倒的なプレッシャーであった。その事が、影人に目の前のソレが本物であるという事を否応なく教えて来る。影人が創った偽物とは、全てが違う。全てが目の前の本物には遠く及ばない。

「「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」

 2体のソレが身をすくませるような鳴き声をあげる。実際、影人の体は無意識に震えていた。一般の人や気の弱い人がこの鳴き声を聞けば、腰を抜かすか失神するだろう。原始的な恐怖、とでも言うべきようなものが、その鳴き声にはあった。

 ソレは一見すると巨大なトカゲのようなものだった。全長は20メートルくらい。全身は鱗に覆われている。片方は黒い鱗に。もう片方は白い鱗だ。

 四つ足で立つその足の先には、この世の全てを切り裂くような鋭い爪が。1つの足の指の数は人間と同じ5本。つまり1つの足に爪は5本。これも人間と同じだ。

 胴体の付け根には丸太のように太く長い尻尾がある。あれで払われれば、人間は全身を砕かれ即死するだろう。

 同じく胴体には立派な両翼がある。普通のトカゲにはないものだ。翼があるという事は、目の前のソレが飛ぶ事が出来るという事を容易に教えてくれる。

 最後にソレの顔。影人を遥か高い位置から見下ろすその顔には2つの立派な角が生えている。瞳の色はどちらのソレも赤。口はワニのように大きく、その口の中には剣山のような歯が並んでいる。

(・・・・・まさか、生きて本物を見る事になるなんてな。流石にこんな事が起きるとは、予想もしてなかったぜ・・・・・・・・)

 シェルディアが召喚し、影人の前に現れた2体の黒と白の生物。それは伝説上の、空想上の生き物のはずだった。


 その生物の名は――()()()()といった。

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