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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第77話 神々の裁定(3)

「や、やあソレイユ・・・・・・・今日もその・・・・・・綺麗だね」

「あら、嬉しい言葉ですね。ありがとう、ラルバ」

 一方、神界ではソレイユがラルバに呼ばれ、美しい花が咲き乱れる庭園にある西洋風の東屋あずまやに足を運んでいた。

(やっぱり、ソレイユは今日も可愛いな・・・・・・)

 普段はこんなに言葉がぎこちなくはないのだが、長年の想い人の前ではいつもこうなのだ。一応、今の言葉もラルバなりの精一杯のアピールなのだが、ソレイユはお世辞と受け取ったのか、笑顔でそう返しただけだった。

「さて、今日はどういった用件ですか? わざわざ、ここに呼ぶということはそれなりの話だと思いますが・・・・・・」

「あ、ああごめんよ! 君の貴重な時間を無駄にしてっ!」

「いえ、全然そんなことはないですが・・・・・・」

 ラルバの慌てぶりに、ソレイユは首を横に振った。まだここに来て、1分も経っていない。時間が無駄になったとは心の底から思わないソレイユだ。

(ラルバは昔からこうですね)

 ラルバとは人間の世界で言う、いわゆる幼馴染という関係なのだが、自分といる時はどこか態度がぎこちなかった。その理由は自分にはわからないのだが、予測としてラルバは自分のことが苦手なのではと考えている。そして、ラルバは優しいからそのことを言葉に出さないのだろうとも。

「と、ごめん・・・・・・・ちょっと慌てちゃったみたいだ。じゃあ、早速だけど本題に入ろうか」

 まさかソレイユがそんなことを考えているとはつゆ知らずに、ラルバは顔を引き締めた。ここからは守護者の神としての真面目な話をしなければならない。

「ソレイユ。君も昨日のレイゼロールとスプリガンと名乗る人物との戦いを、光導姫の目を通して、見ていたと思う」

「ええ、私も見ていましたよ。スプリガンなる人物は、昨日初めてその姿を確認しましたが」

 ラルバの言葉にソレイユはそう返した。

「うん。実は話っていうのはそのスプリガンのことなんだ。ソレイユ、君はスプリガンのことをどう思う?」

 ラルバがソレイユをこの場所に招いた、主題を口にした。

(とうとう、この時が来ましたか・・・・・・)

 その問いにソレイユも内心気を引き締めた。

 そう、昨日の戦いはラルバも守護者の目を通して見ていたのだ。そしてラルバは、スプリガンの姿とその力を知っただろう。

(おそらく、ラルバが私をここに呼んだのは、スプリガンの今後の対応を決めるためでしょう)

 昨日の戦いはスプリガンの戦闘能力の高さを窺うのには絶好の一戦だった。なにせ、相手はあのレイゼロールだ。しかも、最終的にはスプリガンはレイゼロールを退却させている。

(昨日の影人の力は異常でしたからね。しかも、レイゼロールから受けた傷もいつの間にかなくなっていた・・・・・・と、本人は言っていましたし)

 そのことについては後で影人と話し合うつもりだ。今、自分がすべきことはこの話の結果が影人にどのように影響するか見極めること。

 ソレイユは少し考えたフリをして、言葉を紡いだ。

「そうですね・・・・・・レイゼロールとも対等に戦える謎の人物というのが私の感想です。今のところ目的はわかりませんが、光導姫を、昨日は守護者も結果的に助けたところを見ると、敵ではないと私は考えます」

 さりげない様子で、ソレイユは自分の考えを述べた。影人を敵と認定されてしまうと、光導姫と守護者とも戦うことがあるかもしれない。その事態はできるだけ避けたい。

 しかし、味方と言い切ってしまうのも悪手だ。スプリガンが実は味方でしたとわかってしまうのは意味がないのだから。

 ゆえにソレイユは味方でもなければ敵でもないのではないか。という、自分にとってもっとも都合のいい意見を述べたのだ。

「うん、ソレイユの言うことはもっともだと俺も思うよ。結果として彼は光導姫を何度も助けたようだし、うちの守護者も助けられたのは2度目だしね。ただ、昨日スプリガンが結界を壊す時に放った攻撃は無差別だった。なんとか俺たちの転移が間に合ったからよかったけど、あのままだとかなり危なかったよ」

「・・・・・・・はい、あなたの言うとおりですね」

 そう、ラルバが言ったようにその無差別攻撃がソレイユの唯一の懸念点だった。

 影人がなぜあのような事をしたのかは、まだわからない。昨日は影人もだいぶ疲れているようだったし、傷の確認と会う日時だけを伝えただけ。詳しい話はこの後、影人から聞く予定だ。

(少しまずいですね・・・・・・慎重派のラルバのことです。あの攻撃だけでスプリガンを敵と認定してもおかしくはない。それはあまりよろしくはありませんね)

「どのような考え・行動だったかは知らないけど、あれはこちら側に対する明確な敵対行為だ。だから彼のことは敵として、全世界の光導姫と守護者に伝えるべきだと俺は思うんだけど・・・・・・ソレイユは俺の意見に賛成かい?」

 ソレイユが予想したとおり、ラルバはスプリガンを敵と認定したようだ。そのことは予想できたが、ラルバが言った全世界の光導姫と守護者に伝えるというのは、ソレイユも予想できなかった。

(これは・・・・・・さすがに読めませんでしたね。しかもいま全世界に影人の存在を伝えるべきというのは非常にまずい)

 全世界の光導姫と守護者が敵になるというのは最悪の事態の1つだ。そんなことになれば、影人のスプリガンとしての活動に支障をきたしてしまう。その事態は避けねばならない。

「それは飛躍しすぎではないでしょうか? 少なくとも、昨日スプリガンに助けられた光導姫たちは彼を敵だとは思っていないようです。身近にスプリガンを見ていた彼女たちがそう言うのです。もう少し様子を見てもいいのではないでしょうか?」

 ソレイユがラルバの意見に暗に反対という意味を含んだ言葉を返した。ソレイユの意見を聞いたラルバも頷きはするが、納得はしていない様子だ。

「それもそうなんだけど、いざという時があるかもしれないだろ? もし様子を見て誰かが取り返しの付かないことになってからじゃ、遅いと俺は思うんだ。でも、ソレイユと光導姫がそう考えているなら、全世界の光導姫と守護者にスプリガンの存在だけを伝えることにするっていうのでどうかな? 今のところ、スプリガンは日本にしか現れてはいないけど、他の国に現れる可能性もあるかもしれないし」

 ラルバが譲歩案としてそのようなことを提案した。

 しかし、スプリガンの存在を全世界に広めたくはないソレイユは強気な姿勢でラルバの意見に反対した。

「それはまだ早いと私は思います。それにスプリガンの存在を聞いた光導姫と守護者は彼のことをどう思うでしょうか? 多くの者たちが彼のわかっている情報から、敵もしくは底知れない怪人と思うのではないでしょうか。私は彼のことを敵とも味方とも考えていませんが、私は昨日、光導姫たちにスプリガンは悪い人物ではないとわかってほしい、と言われました。私は彼女たち光導姫の神として、彼女たちの意見を信じます。ゆえに、ここは退けません。私にも神としても面子があるのです」

 凜とした表情でソレイユは言い切った。ここが自分にとって1つの正念場なので、その裁定だけは認めるわけにはいかなかった。

 そのソレイユの態度にラルバは少し驚いた。いつもは優しい彼女がそんなことを言うのは本当に珍しいからだ。

 そして決まって自分はそんなソレイユに弱かった。

「そ、そうか・・・・・・・・・わかった、なら各ランキングの10位までの光導姫と守護者に伝えるってのはどう? もちろん今わかってる情報だけだよ。それ以上は俺も譲歩はできない・・・・・・・かな」

 少し弱腰になったラルバ。そもそも、ラルバはソレイユに惚れているのであまり強い言葉は言えないのだ。惚れた弱みというやつである。

 だが、ラルバも守護者の神だ。自分の最低限な意見だけは譲れなかった。

(・・・・・・・ここが落としどころでしょうね。これ以上は、ラルバも退かないでしょうし、私自身に猜疑の目を向けられる可能性もありますし)

 ここが限界と見極めたソレイユはラルバの意見に賛成した。

「・・・・・・わかりました。それならば、彼女たちを裏切る行為にはならないでしょう」

「ありがとう、ソレイユ。なら、そういうことで」

 これにてスプリガンについての神々の裁定は終了した。

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