第769話 極限のスプリガン(3)
(チッ、肉体も疲労し始めて来やがった。今で大体500本。残りはあと大方この5倍か。気が遠くなるが、何とかもってくれよ・・・・・・!)
影人の体感時間にしては20秒ほど。影人は汗を流しながら血の槍を未だに破壊し続けていた。体感時間でたった20秒ほどだと言うのに、影人は肉体も精神もかなり消耗している。
それから更に影人の体感時間にして20秒後。破壊した血の槍の数は遂に1000本を超えた。息が上がって来る。だが、ここで諦めるわけにはいかない。影人は何とか集中力を維持しながら、体を動かし続けた。
体感時間40秒後。血の槍の大群を殴り蹴る事およそ80秒。破壊した血の槍の数は2000を超えた。
(ヤ、ヤバいぜ。マジにそろそろ限界だ・・・・・だが血の槍はまだ1000本ある。あと体感時間40秒。ここで折れるわけには・・・・・・・・)
息はすっかり荒く、汗も全身から噴き出し、体は熱く痛い。肉体面は極限状態のまま限界を超えていた。そして、それは精神面も同じだった。正直に言って、今にも気が狂うかプツリと神経がブラックアウトしそうだ。
それから体感時間20秒後。血の槍を破壊し続け体感時間計100秒が経ち、血の槍を2500本壊したところで、影人の集中力が先に限界を迎えた。
右上から来る槍を右手で殴り壊した後に、回避しなければならないタイミングを、影人はつい逃してしまったのだ。
その結果、影人は前方から自分に向かって来る槍全てを同時に捌かなくてはならなくなった。
(ッ!? クソッ、やっちまった・・・・・・!)
ここに来てのミス。残りの血の槍はまだ500本ほどあるというのに、致命的なミスをしてしまった。もう回避は出来ない。
(こんちくしょうがッ・・・・・! 詰んだ・・・・だが、まだだ。まだ俺は諦めねえ!)
影人は正面の血の槍を右手で殴り、左手でその左隣の血の槍を殴った。右足は右斜め前方から来た血の槍を蹴り飛ばす。しかし、捌ききれなかった血の槍が影人の右頬を派手に擦り、肉を抉った。
(痛えなおい・・・・・! だが回復は後だ。そんな暇すらも今はねえ!)
頬から派手に血を流しながらも、影人は両手両足を動かし血の槍を破壊し続ける。1度ミスをした弊害によって、血の槍は何本か影人の体を抉ってくる。何とか体を直前に動かす事によって、串刺しは免れているが、それでも血の槍は確実に影人の肉体にダメージを与え続けている。
「う・・・・・・うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
痛みを紛らわすために、最後の力を振り絞るように、影人は叫んだ。スプリガン状態の自分がこんな雄叫びをあげるのは初めてだ。影人の中ではスプリガンはクールな謎の怪人。雄叫びをあげるようなキャラではないと、影人は勝手にキャラ付けをしていた。だが、そんな事を言っていられる状況ではない。影人はシャウト効果も少し期待しながら叫んだ。
破壊した槍の数が2600を超える。残りは400本。そのぶん影人の体を擦り抉る傷も増えていく。外套の一部分が引き裂かれ、そこから血が流れ出る。だが構いはしない。影人は血の槍を殴り蹴る。




