第767話 極限のスプリガン(1)
「さあ、戦いを始めましょう」
シェルディアが両手を広げる。闘志に満ちた笑みを浮かべる。その宣言を聞くに、どうやら今までの攻防は戦いとすらシェルディアは認識していなかったのだと、影人は思い知らされた。全く以てふざけた存在である。
「少し下品だけど・・・・・・・・仕方ないわよね」
シェルディアの影から何かが飛び出す。それは短剣と赤い液体のパック状の物だった。
(あれは・・・・・・血液のパックか?)
よく医療系のドラマで見るような輸血パック。シェルディアの影から飛び出した物はそれだった。
シェルディアが左手に短剣を持ちながら、右手で持っていた血液パックを宙に放った。そしてシェルディアは、伸びた右手の爪で血液パックを突き刺した。
すると、まるで爪から血液が全て吸収されたように、血液は一瞬にしてなくなった。
(爪から血を取り込んだのか? その意図は何だ? 単純に考えるなら、エネルギーの補給だが・・・・・)
シェルディアの行動を1つも見逃すまいと観察していた影人がその意味を考察する。そして、影人の考察の答えはすぐに示される事となった。
「ごちそうさま。一気飲みは本当に久しぶりだわ。まあ、私はあまり好きではないけれど」
シェルディアはそんな事を呟きながら、左手に持っていた短剣を逆手に持ち、右の掌に狙いを定めた。そして、その短剣を深々と掌に突き刺す。
(自傷行為。って事は、また血の操作か。正直に言うと、他の手札を見たかったが・・・・・・・はっ、来いよ。もうそれの対処法は見つけたんだ。血の槍が何本来ようが、全部破壊してやるよ)
影人は左手にも再び『破壊』の力を宿らせると(右手はもう既に力を宿らせている)、『破壊』の力を宿した両手を構えた。
「ふふっ、噴き出しなさい」
シェルディアは右手の掌に突き刺した短剣を勢いよく引き抜くと、右手を上にかざした。すると、血がまるで滝のように噴き出した。普通、突き刺した短剣を勢いよく引き抜いたからといって、あれほどまでに血は噴き出さないだろう。明らかに異常なその光景。そして更に異常な事に、噴き出したは上空で流動し、槍のように形を変え固形化する。先ほど影人を襲った血の槍だ。それが1本、2本、3本と増えていく。ここまでならば、別に驚くような光景ではない。
(ッ・・・・・・おい、確かに何本来ようが全部対処してやるって意気込んだが、どこまで増える気だよ・・・・もう明らかに1000本は超えてるぞ・・・・・・!?)
しかし、今回はその増殖速度とでも言うべきものが異常だった。血の槍は1秒におよそ100本ほど造られていき、現在もその数を倍々に増やしていく。既に血の槍は、星舞う夜空を赤く染め始める程に増殖していた。
「さて、こんなところでいいかしら。数は数えていなかったけど、大体3000本くらいという感じね。ふふっ、ちょっと頑張りすぎたかも」
それから30秒ほど。影人が呆気に取られたようにその光景を見ていると、シェルディアが右手を下ろしながら小さく笑った。シェルディアは右手の傷を治癒し短剣を影の中に放り捨てると、影人の方に向かって右手を伸ばした。
「さあ、あなたはこの全てを捌ききれるかしら?」
試すようにそう言ったシェルディアの言葉の後に、およそ3000の血の槍が影人に向かって飛来してきた。




