第765話 化け物と怪人の戦い(3)
「はあ、少し面倒だけど・・・・・」
シェルディアはため息を吐きながら、右手を平行に伸ばした。すると、右手の爪が少しだけ伸び――
次の瞬間、シェルディアがその右手を振るうと、全ての黒線は切り裂かれていた。
(ッ!? マジかよ・・・・・・・・・・!)
たった一撃。爪を無造作に振るっただけ。たったそれだけの事で、影人の攻撃は無に帰した。
「さて、2度ほど受け身の姿勢を取ってあげた事だから、次は私が攻めましょうかね」
(来るか・・・・・!)
シェルディアがどこか嗜虐的に笑う。その笑みを見た影人は背中にゾワリとしたものを感じながらも、全力で身構えた。
「これを使うのもかなり久しぶりね」
シェルディアは伸びた右手の爪を自身の左手に近づけた。そして何を思ったのか、シェルディアは右手の爪で自身の左の手首を切り裂いた。
「っ、何を・・・・・・・」
影人が顔を疑問の色に染めながら言葉を漏らす。唐突な自傷行為。それほどまでに、シェルディアの行為は理解し難いものだった。シェルディアの手首からは鮮血が吹き出し、地面に流れ落ちている。
「行きなさい、私の血よ」
シェルディアが笑みを浮かべながらそう呟くと、手首から流れた真っ赤な血が空中に浮かび流動し、影人の方に槍のように伸びてきた。
(なるほど、自分の血を操れるのか・・・・・・!)
自分の方に凄まじい速度で伸びてくる血の槍。影人は思い切り地面を蹴って横方向へと飛んだ。血の操作。新たに分かったシェルディアの手札はそれだった。
「ふふっ、ダメよ逃げちゃ。どこまでも追ってくるから」
「ッ! チッ、追尾式か・・・・・!」
その言葉通り、血の槍は再び影人の方へと向かって来た。どうやら迎撃しなければならないタイプのようだ。
影人は虚空に獣の顎のようなものを召喚し、血の槍を噛み砕かせようとした。血の槍は液体というよりかは、固形化しているので砕けるはずだという考えに基づいての迎撃方法だ。
影人が召喚した顎に血の槍が突っ込んでくる。タイミングを見計らい、影人は顎を血の槍に落とした。これで血の槍は噛み砕けるはずだ。
ガキィィィィィィィィィィィィン! と顎が固形化した血の槍を挟む音が辺りに響いた。その音はまるで金属をハンマーで叩いたような、そんな音だった。
(よし、これであの血の槍は無力化できたな)
影人はそう考え、次なる攻撃の手段を一瞬思考しようとした。近接、中距離、遠距離、まだまだシェルディアはいずれかの範囲で機能する手札を持っているかもしれない。
次はどの距離からどんな攻撃をするか。影人がシェルディアに油断なく視線を向けていると、
「ああ、言ってなかったかもしれないけど、その程度じゃ私の固まった血はどうにか出来ないわよ?」
シェルディアが澄ました顔でそんな言葉を述べた。
その言葉と同時に、影人の側面で何かが突き破ったような音が聞こえてきた。
それは、血の槍が顎を貫いた音だった。




