第764話 化け物と怪人の戦い(2)
「大した速さね。でも・・・・・・ね?」
「ッ・・・・・!?」
だが、シェルディアは左手でナイフを掴み、自分の影を操作して杭を全て防いだ。影人の攻撃がシェルディアに通る事はなかった。
「その程度で私を殺せるはずないでしょう?」
シェルディアはそのまま影人のナイフを指の力だけでへし折ると、右足で軽く影人を蹴飛ばした。
「がっ・・・・・!?」
それは軽い少女のような蹴りのはずだった。だがその蹴りを左脇腹に受けた影人は、尋常ではない衝撃と痛みを感じ30メートルほど先に飛ばされてしまった。
「ゲホッゲホッ・・・・・! く、くそが・・・・・・・」
地面に伏した影人は激しく咳き込んだ。蹴られた左脇腹の骨は全て砕かれている。信じられない激痛がその事を如実に示している。
(ちくしょうが。見えなかった。反応出来なかった。しかも『硬化』してるのに、こんなダメージまで・・・・・・・はっ、確かにこいつはレイゼロールよりも強いみたいだぜ)
影人は受けたダメージを即座に回復し、肉体を元通りし立ち上がった。シェルディアのあの蹴りは、ただの蹴りであるはずなのに、影人の強化した眼で見ることも出来ず、強化した肉体で反応する事も出来なかった。そしてシェルディアの蹴りは破壊力も抜群で、影人の硬化した肉体すらも関係なしに蹴り抜いた。
「へえ、すぐに立てるのね。ちゃんと蹴ったから骨は砕いたはずだけど・・・・・・ああ、回復したのね。ふふっ、つくづくレイゼロールと同じで色々な事が出来るのね。面白いわ」
立ち上がった影人を見たシェルディアは、少しだけ驚いたような顔を浮かべた。その顔が、また影人の殺意と怒りを増幅させる。だが、気持ちだけを抱いていても戦いには勝てない。影人はシェルディアを睨みつけながら、一瞬思考した。
(ただの蹴りであれとなると、近接戦は仕掛けない方がいいか? いや、どっちにしても1対1。いずれは近接戦になる。だが、まだだ。まずは奴の手札全てを確認しなきゃならねえ。いま見えた奴の手札は影。おそらく、ある程度自由に形を変え操作できると考えた方がいい)
シェルディアの持ち得る攻撃と防御の手札を出来るだけ引き摺り出す。影人はそれを最初の目的に決めた。
「蜂の巣にしてやるぜ・・・・・!」
影人は両手に闇色の拳銃を2丁、自分の周囲の空間からおよそ200ほどの銃身を出現させた。そして、両手の銃と周囲の銃身の照準を全てシェルディアに合わせる。
「ご大層ね」
影人が出した銃の群れを見たシェルディアがそんな感想を漏らす。その表情はどこまでも余裕だった。
「黒線の流星群よ、その黒き光で我が敵を討て」
影人は次の一撃を強化する言葉を自分の両手の銃と、周囲の銃身全てに施した。力が激しく消費されていく感覚を覚えたが、そんなものはどうでもよかった。
「一斉射撃」
そして影人は両手の銃の引き金を引いた。両手の2丁の銃からシェルディア目掛けて黒い光線が放たれる。それに連動するかのように、周囲に浮かんでいた銃身も、黒い光線を発射した。
およそ200ほどの黒い光線が、一斉にシェルディアを襲う。普通の敵が相手ならば明らかにオーバキル。そうでなくとも、この攻撃を全てどうこうするのは不可能に近いだろう。それほどまでの攻撃の物量だからだ。
(さあ、どうでやがる化け物)
目に映る少女の姿をしたモノを、この攻撃でどうこう出来るとは思っていない。この攻撃の目的はシェルディアの対応、その観察にある。影人はシェルディアの対応を見逃さないように、その目を細めた。




