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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
762/2051

第762話 シェルディアとスプリガン(5)

『おい影人! 馬鹿みたいに突っ立ってる場合かよ!? 今は逃げる方法だけを考えろ! 何か、何かあるはずだ! この「世界」から抜け出す方法がよッ!』

『影人、行動を起こす時は慎重に、慎重にです! シェルディアは気まぐれな怪物。上手くあなたが立ち回れば無傷で帰れる可能性も充分にあります! ただ先ほども言いましたが、彼女と戦うという選択肢だけは絶対に避けてください! でないと、でないとあなたは・・・・・!』

 未だに何の行動も起こさない影人に対し、イヴは苛立ったように余計に焦ったように叫びを上げる。一方、シェルディアの事を多少知っている様子のソレイユは影人に対しそうアドバイスをしてきた。

「・・・・・・・・・そんなあんたが、俺にいったい何のようだ? レイゼロールに言われて俺を殺しにでも来たか・・・・・?」

 影人はイヴとソレイユの言葉を無視しながら、シェルディアにそう問いかけた。

「いいえ、決してそうではないわ。私があなたに会いたいと思ったのは、私があなたに興味を抱いているから。そこにレイゼロールは関係ないわ。まあ、レイゼロールにはあなたを殺せと言われたけど、私があの子の命令に従う義理はないしね。私とレイゼロールは対等なのよ」

 シェルディアは影人の問いかけに首を横に振ると、笑みを浮かべてこう言葉を続けた。

「だから、私とお話してくれないスプリガン。光と闇の戦いに突如として現れた謎の怪人。私はあなたの事が知りたいの。あなたの目的は? あなたの正体は? あなたの力は? あなたに対する疑問は尽きないわ。でももし、あなたがどうしても答えたくないというのなら――」

 シェルディアがその場合について言葉を紡ごうとすると、シェルディアの左頬を()()()()()()()()()

 その結果、シェルディアの左頬からスゥと一筋の血が流れ出た。

「あら・・・・・・これは、何のつもりかしら?」  

 シェルディアは左手で今できた傷に触れ自分の血を見つめると、少しだけ冷たい声で、自分にナイフを投擲してきたスプリガンにそう聞いた。

「・・・・・・・・・何のつもりもない。失せろよ化け物が。()()()みたいな人外と話す事なんて何もないんだよ」

 右手でナイフを投げるモーションを取っていた影人は、底冷えのするような暗い声でそう吐き捨てた。声だけではない。その金色の瞳も、凍えるように冷たかった。

『バカてめえ正気か影人!?』

『影人いったい何をしているんですか!?』

 影人がシェルディアを攻撃した事に、イヴとソレイユは信じられないといった声を上げる。しかし、そんな声はどうでもいい。

(はっ、()()だ。また俺は化け物に・・・・・・・・ああ、どうしてこうなんだろうな。いつだって、世界ってやつは、どこまでも残酷に出来てやがるんだ)

 影人は自分の記憶の奥底――自分の精神世界の奥にあった、あの禁域の鎖が緩むのを感じた。シェルディアの存在は、どうしても()()とアレにまつわる記憶が想起される。

(嬢ちゃんが、いや・・・・・・()()()がアレと同じ化け物だってんなら・・・・・・・・)

 シェルディアの事をこいつ呼ばわりした影人に、もう情は残っていなかった。既に影人の中のシェルディアと過ごした記憶は壊れている。今の影人にとって、シェルディアは明確な、()()()()()()だ。

「・・・・・・消えろ、2度と俺の前に現れるな。もし、消えないっていうんなら・・・・・・」

 影人はシェルディアを睨みながら、殺意を乗せこう言葉を放った。

「・・・・・・・・・()()()()()()()

 それは本気の言葉だった。いま影人は、シェルディアに純粋なる殺意を最大限まで抱いていた。でなければ、()()()()()()()()()()()()()()()としたあの約束を。自分があの時に絶対に守っていくと誓った自分の大切な家族を。影人の頭に光導姫や守護者のためなどという言葉はない。影人はただ私情で、シェルディアに殺意を抱いていた。

 物語の優しい普通の主人公ならば、例えこういう状況でも戸惑うだけで歩み寄ろうとするかもしれない。そこに思い出があるのなら尚更、仲が良いのならば更に尚更。対話の精神が存在するかもしれない。

 だが、帰城影人という少年は確かに普通の少年ではあるが、そういった箇所はもう既に()()()()()。だから帰城影人は、こういう状況で思い出などを全て捨て去り殺意を抱けるのだ。でなければ、大切なものを守れないかも知れないと知っているから。

「・・・・・・・随分と嫌われてしまったものね。でも、まあいいわ。あなたがその気だというのなら・・・・・・・・・あなたを負かした後で色々と聞いてみましょう。来なさい、スプリガン。あなたと戦ってあげるわ。この私を殺してみなさい。出来るものならば」

 スプリガンから殺しの宣言を受けたシェルディアは、酷薄な笑みを浮かべ両手を広げた。どうやら、退却はしないようだ。

「・・・・・ああ、やってやるよ。必ずてめえを殺すぜ。()()()()

「思っていたよりも口が悪いのね。あまり調子に乗らない事ね。でないと、うっかり殺しちゃうかもしれないから」

 スプリガンとシェルディアは互いに闘気と殺気を高めながら、そう言葉をぶつけ合う。

 シェルディアとスプリガンの戦いが、遂に始まろうとしていた。

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