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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
761/2051

第761話 シェルディアとスプリガン(4)

「・・・・・・・・・・」

 だが、そんなイヴとソレイユの全力の警告を受けても、影人は目の前にシェルディアが現れた事に対する驚きから立ち直れなかった。

「? そんなに驚いた顔をしてどうしたのかしら。私はあなたを見ていた事はあるけど、さっきも言ったように、直接あなたと会うのは初めてなのだけれど・・・・・・ああ、それともこの『世界』に驚いているのかしら。まあ、確かにこれを出来るのは私を含めて数えるくらいしか出来ないでしょうし、驚いても仕方ないわね」

 シェルディアは影人が、スプリガンが驚いてる理由について勝手にそう納得した。そして、シェルディアは丁寧に、語りかけるように『世界』についての説明を始めた。

「これは『世界』と呼ばれるわざよ。周囲の空間を自らの望むままに、あるいはその者の本質で周囲を覆う業。その結果、その者の本質が顕現した『世界』が構築される。そういう認識でいいと思うわ。つまり、いま広がっているこの光景こそが、私の本質が顕現した『世界』という事よ。では元いた世界が丸ごと私の『世界』に覆われたかというと、そうではないの。この『世界』は一種の異界。現実の世界とは、ほんの少しだけズレた空間にあるというわけ。だから、現実世界の者たちは私たちを認識する事は出来ない。でも座標的には元いた世界の場所と変わらないから、『そこにいないのにそこにいる』という、矛盾的な事も言えるわね」

 シェルディアの説明は、はっきり言えば難解であった。しかし、そんな説明は影人にとってはどうでもよかった。確かにこの『世界』は驚くべきものだが、問題はシェルディアが何者であるのかという事だ。

「・・・・・・・・・・あんたは・・・・・・・いったい何者なんだ?」

 ようやく少しは放棄していた思考が戻った影人が、シェルディアにそう問いかける。掠れたような声で。呼び方も、「嬢ちゃん」とは呼ばずに「あんた」と他人行儀に、どこか無礼にそう呼んだ。

「私? そうね、先ほどの言葉だけじゃ分かりにくかったかしら。そして、私にそう聞くという事は、あなたは私と同じ存在ではないのね」

 まさか、目の前にいる謎の怪人の正体が隣人たる少年とは微塵も思っていないシェルディアは、その問いかけに1つ答えを得たように首を縦に振った。

「まず勢力で言えば、私はレイゼロールの所に属している事になるわ。『十闇』とは、最上位闇人たちの事を基本的に指すのだけれど、私はその中において唯一の例外よ。闇人たちはレイゼロールによって人ならざる者になった存在だけれど、私は違うわ。私は元から人ではないモノ・・・・・・・()()()()()()とでも言えばいいかしら?」

「ッ・・・・・・!?」

 シェルディアからその事を聞いた影人は、再びその顔を驚きに歪めた。だが、今度はその驚きの中に絶望の色が含まれていた。

「【あちら側の者】、そう呼ばれる事もあるわ。或いは吸血鬼とも。でもまあ、こちらの世界の伝承や話にあるような弱点は殆どないわ。太陽は少しだけ苦手だけど。あと補足しておくとするなら、不老不死という事くらいかしら」

 続くシェルディアの言葉は、影人に更なる衝撃と絶望を与えるものだった。吸血鬼。伝説や怪奇小説などに出てくる化け物が、影人と、影人の家族が今まで接していた少女の正体なのだという。本心ではそれを否定したい影人だったが、このような馬鹿げた光景を展開しているシェルディアをただの人間と擁護する事は、もう不可能であった。

(ははっ・・・・・・・何だよ、これ。何だよそれ。嬢ちゃんがレイゼロールの味方で、吸血鬼? こいつは悪い夢か? 俺がたまたま出会って、仲良くなって、今は隣に住んでる嬢ちゃんが、そんな存在だったなんてのはよ・・・・・・・・ああ、何て滑稽でクソみてえな現実だ・・・・・・)

 まるで時が止まったかのような感覚に陥りながら、影人は内心で壊れたように嗤った。シェルディアと出会い、今まで自分の中にあったシェルディアとの思い出が壊れていく。彼女と今スプリガンとして対峙している現実だけが、ただ純然とそこにある。この対比が、影人の心に更なるダメージを与える。

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