第76話 神々の裁定(2)
自らの影から取り出した、アンティーク調のイスに掛けながら、話を聞き終わったシェルディアは、満足そうな笑みを浮かべた。
「いいじゃない! 面白かったわ! スプリガン、スプリガンね。あんたと同等レベルの力を持つ謎の人物・・・・・・・私も興味がそそられてきたわ!」
「・・・・・・・・貴様ならそう言うだろうと思っていた」
その案の定なシェルディアの反応に、レイゼロールは軽くため息をついた。
こうなれば、シェルディアはスプリガンに彼女が飽きるまで執着するだろう。それが、シェルディアという存在だ。
「ふふっ、不思議ね。不思議って貴重だわ。ねえ、レイゼロール、そのスプリガンって私と同じなのかしら?」
「・・・・・・・さあな。ただ、お前が知らんということは、その可能性は低いだろう」
「それもそうね。ああ、早く会ってみたいわ。ふふっ、ふふふふふふふふふ!」
シェルディアがさも可笑しそうに笑う。まるで新しい玩具でも見つけたように。
(・・・・・・・同情はする。が、これでシェルディアがスプリガンを消してくれれば、それはそれで手間が省けるか)
シェルディアに興味を持たれる厄介さを知っているレイゼロールは、スプリガンに少し同情した。そして、あわよくばシェルディアがスプリガンを消してくれることを期待した。そう、あくまで期待だ。シェルディアはレイゼロールの命令などは聞かない。それはレイゼロール自身が身にしみて分かっている。
暗闇の中、スプリガンを新たに狙う少女の声が響いた。
『――次のニュースです。昨夜、東京都郊外で強盗殺人犯として指名手配されている男が逮捕されました。男は道路の上で意識を失っていたという奇妙な状態で――』
サクリ、と焼いた食パンをかじりながら、影人はボーとニュースを見た。
テレビには昨日、自分がレイゼロールと戦った大通りが映し出され、リポーターが何かを話している。ただ、リポーターの周囲に工事員の姿が目立っていた。どうやら昨日の影人が壊したアスファルトやら建物やらを修復しているようだ。
(・・・・・・本当にごめんなさい)
心の中でその破壊の主である影人は働いている工事員の方々に頭を下げた。影人の意志ではないといえ、あの破壊は自分の体がしでかしたことだ。罪の意識がないといえば嘘になる。
「今日が休みでよかったぜ・・・・・・」
少し遅めの朝食を食べながら、影人はそう呟いた。今日が学校であったならば、影人は間違いなく遅刻していた自信がある。
今日の用事といえば、神界に行ってソレイユと話をするくらいだ。その後はぐうたらすることを心に決めている影人である。
(つっても、後もうちょい時間はあるし、適当にテレビ見とくか)
昨日ソレイユと念話をしたとき、影人が神界に行くのは正午過ぎということになった。なので正午過ぎになれば、ソレイユが勝手に自分を神界に転移させるだろう。
『次はエンタメニュースです! なんと皆さんご存じの世界の歌姫が、夏に日本でライブをすることが決まりました! さらに、さらに! ヴァチカンの聖女も夏に日本に訪日することを、先ほどカトリック教会が発表しました! これは非常に楽しみですね!』
アナウンサーが変わり、元気そうな声がテレビから聞こえてくる。熱い緑茶を啜りながら、影人は時が過ぎるのを待った。




