第759話 シェルディアとスプリガン(2)
「悪いがまだ2、3割といったところだよ。最上位闇人を視るのは初めてだが、中々本質が込み入っている。スプリガン・・・・・彼よりかは幾分ましだが、本質が視にくい」
ロゼのキャンバスには、何冊かの分厚い本が描かれている。この分厚い本はおそらくキベリアの知識欲を表しているのだろうが、今のロゼに描けたのはまだこれだけだった。
「そうですか・・・・・・・あなたの絵さえ完成すれば、こちらの勝ちは確定しますが、相手は最上位闇人、やはり一筋縄ではいきませんね」
「申し訳ない。時間さえもらえれば必ず仕上げてみせるが、まだかなり時間は掛かると思う。更に言うなら、絵を描いている間の私は守ってもらって戦えもしない、光導姫とは名ばかりの一般人に等しいからね。本当に迷惑をかけるよ」
「迷惑だなんて思ってもいませんよ『芸術家』。あなたは、そのあなた以外には決して扱えない能力を以て、光導姫ランキング7位まで駆け上がった人物です。僕はそんなあなたを信頼しています。それはおそらく、光導姫アカツキもですよ」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。では、私も期待に応えなくてはね」
ロゼと光司がそんな言葉を交わしてる間にも、光司たちの前を走る暁理とキベリアは攻防を掛け合っていた。キベリアがナイフを創造して暁理に放つが、暁理は今度は出来るだけ光司たちの方に流れないように、そのナイフを剣で弾いていた。
「お返しだ、これでも喰らいなよオバさん!」
暁理は地面に転がっていた少し大きめの石を、サッカーボールを蹴るかのように思い切り蹴飛ばした。今の暁理は光導姫形態。蹴りの威力はプロのサッカー選手をはるかに凌駕する。そんな暁理が蹴飛ばした石は、まるで弾丸のようにキベリアへと飛来した。
「アホ。私の箒捌き舐めない事ね。そんな石ころ当たるもんですか」
だが、キベリアはひょいと箒を動かしてその攻撃を避けてみせた。その程度の攻撃に反応できない自分ではない。
「へえ、そう。なら、これも避けてみなよ! 風の旅人――剣技、風撃の三!」
暁理がニヤリと笑ってそう呟くと、暁理の周囲と剣に風が集まり始めた。暁理は剣に風が集まったのを確かめると、その剣を振るった。
キベリアと暁理の距離はまだ10メートルほど離れていた。普通に考えれば、剣が届くはずはない。しかし、暁理のこの技は風に乗せて斬撃を飛ばす。ゆえに、その一撃は飛ぶ斬撃となってキベリアを襲った。
「ッ!? 生意気なッ・・・・・!」
キベリアは背後から飛ぶ斬撃が迫って来たのを確認すると、回避のために箒を動かそうとした。だが完全には避けきれず、箒の穂先の一部分が斬撃によって切り飛ばされた。その事によって、箒のコントロールを失ったキベリアは空中にその身を投げ出される。
「ちっ・・・・・!」
「隙ありだ・・・・・・!」
チャンスと捉えた暁理が、風の旅人状態の凄まじい速度のままキベリアに向かって肉薄した。暁理はそのまま空中で身動きが取れないはずのキベリアに剣を振るった。




