第756話 約束された答え合わせ(4)
――そして、時は夜を迎えた。9月21日金曜日、午後8時過ぎ。東京郊外、山の近くの開けた土地。辺りには目立った建造物の姿は見えない。そんな場所に1人の女性が立っていた。
「はー・・・・・・・面倒くさい。何で私がこんな事を・・・・」
短い赤髪にスレンダーな見た目の、魔女のような服装をした女だ。その女――魔法によって姿を変えたキベリアは大きくため息を吐いた。
キベリアはいま力を解放して光導姫や守護者、そしてスプリガンを待っている。キベリアが力を解放して3分ほど。おそらくもう少しすれば、光導姫や守護者がやって来るだろう。
(シェルディア様は光導姫や守護者が現れたら、時間を稼ぎつつ違う場所に移動しろって言ってたけど・・・・・・完全にスプリガンが現れる前提で、楽しむつもりね。万が一にでも邪魔が入らないように。全く、嫌になるわ。でもまあ、怖いから従うんだけどね・・・・・・・・)
キベリアが視線を周囲に向ける。周囲にはキベリア以外誰もいないように見えるが、実は違う。この近くには、もう既にシェルディアがいる。キベリアはその事を知っていた。
「・・・・・・・・来たか」
それから2分ほど。キベリアが箒に座りながら待っていると、複数の足音が聞こえ3人の男女がキベリアの前に姿を現した。
「やあ、オバさん。久しぶりだね」
「・・・・・口の聞き方には気をつけなさい。じゃなきゃ、今度はないわよ。クソガキ」
その内の1人――エメラルドグリーンのフードを被り、右手に壮麗な剣を持った光導姫がキベリアに向かってそう言ってきた。その光導姫は、以前キベリアと戦った光導姫の内の1人だ。
「ふむ、初手から挑発とは彼女は中々好戦的だね。いいね、闘志を感じるよ」
「光導姫アカツキは頼りになる方ですよ、『芸術家』。僕は彼女とは、前にこのキベリアを敵として共闘していますから、彼女の実力をよく知っています」
アカツキの言葉に続くように、頭にベレー帽を被り黒い腰エプロンを掛けた光導姫――光導姫ランキング7位『芸術家』ロゼ・ピュルセと、白を基調としたどこかの王子然とした格好の守護者――守護者ランキング10位『騎士』の香乃宮光司がそんな言葉を述べる。
「そっちのあなたも前に戦った子ね。だけど、1人は違うのわね。あなたと会うのは初めてかしら。水色の髪の子」
「こんばんは、魔女よ。お初目にかかる。私はしがない芸術家。今宵、君の本質を描き出す予定の者だよ」
キベリアがその視線をロゼと光司の方に向ける。キベリアの言葉を受けたロゼはそんな言葉をキベリアに返した。
「私の本質を描き出す・・・・・? 言っている意味はよく分からないけど、いいわ。3人まとめてかかって来なさいよ」
キベリアは目を細めてそう促した。戦いが始まらなければ、シェルディアの命令は果たせない。
「言われなくてもやってやるよ。さあ、やってやろうぜ『芸術家』、『騎士』。あのオバさんに吠え面かかせてやろう」
「了解したよ、アカツキくん。じゃ、私は事前に言っておいた通り下がらせてもらう。私の能力はさっきも言ったようにかなり特殊だからね。――来たまえ、私のキャンバス」
ロゼはそう言って、アカツキと光司の後ろに下がった。そして何事か言葉を呟くと、虚空から現れたキャンバスを左手で掴んだ。




