第755話 約束された答え合わせ(3)
「そうね・・・・・一言で言えば、ある人間との出会いかしら。その人間の近くで色々と関わり生活していたら、今の日常が楽しくて愛しくなってしまった。気がつけば、以前まで感じていたようなどうしようもない、虚無に近かった退屈感はほとんど消えていたわ。・・・・・・・・こういうの、あなたも経験があるんじゃないレイゼロール?」
「っ・・・・・・・・」
シェルディアはそう答え、意味深にレイゼロールを見つめて笑った。レイゼロールはそのシェルディアの言葉の意味を理解し、その顔を少しだけ歪ませた。
シェルディアはレイゼロールの過去を知る1人だ。ゆえに、シェルディアはあの人間の事を知っている。レイゼロールが唯一心を許したあの人間の事を。
「まあ、私はあなたと共にいた人間の事を伝聞で聞いただけだから、詳しい事までは分からないけど。あなたがその人間に並々ならない感情を抱いていた事は知ってるわ。なにせ、あなたは禁忌を犯してまでその人間を蘇らせようとしたのだから。ある意味でも、あなたはその人間によって変わった。そして、私もある人間によって変わった。過去のあなたと同じよ」
そこまで言うと、シェルディアは少しだけ戯けたような口調になりこう話を締め括った。
「だから、スプリガンと直接邂逅するのは私の区切りなのよ。今までの退屈に支配されていた私と、退屈だと思っていた変わり映えしない日常を愛しく思っている今の私との区切り。あ、でも勘違いはしないで。私は別に面白いものや興味を惹かれるものは依然好きだし、スプリガンもやっぱりとても気になるから。今回はそこにいま言ったような理由を足しただけよ」
どこまでも楽しそうに、自由に笑うシェルディア。レイゼロールはシェルディアがこのように笑う姿を初めて見た。
「そう・・・・・・か。確かにお前は変わったようだな。少なくとも、少し前までのお前ならそんな事は絶対に言わなかっただろうし、そんな風には笑わなかった。ふっ、まさかお前が人間を原因として変わるとはな」
「私も思ってもいなかったわよ。全く、生きていると何が起きるか分からないものね」
少しだけ口角を上げたレイゼロールに、シェルディアはやれやれといった感じで首を横に振った。
「・・・・・取り敢えず、お前の話は分かった。キベリアを囮とした罠に手は出さない。だが、やるのならば、戦うのならば、しっかりと奴を殺せ。・・・・・・・・まあ、お前は気まぐれ。更には『十闇』というカテゴリーに属しているも、お前は特別で我と対等だ。我の命令を聞くかはお前次第だが、一応言っておく」
レイゼロールはシェルディアに手は出さない事を約束しつつも、そう釘を刺した。レイゼロールの理想はシェルディアが自分の邪魔者であるスプリガンを殺す事。そうなれば、レイゼロールの懸念の種は1つは消える。
「気が向いたらね。彼の方から仕掛けてきたり、彼が不快極まるような人物であれば、殺しちゃうかもしれないけど。今のところは分からないわ。そもそも、戦うかどうかも分からないしね」
レイゼロールの言葉に曖昧な答えを返しながら、シェルディアは暗闇の中へと消えて行った。
「・・・・・・・・せいぜい、今は輝いている日々を大切にしろ。その日々は、いつかは必ず別れが来るものなのだからな・・・・・・・・」
シェルディアが消え去った暗闇を見つめながら、レイゼロールは小さな声でそう呟いた。その呟きには、どうしようもないほどに実感が込められていた。




