第754話 約束された答え合わせ(2)
「・・・・・・・・・お前が知らない間で言うと、ゾルダートとダークレイが帰って来た。これで残るは、実質ゼノだけだ。フェリートはゼノを捜しに行っただけだからな」
「へえ、あの子たち帰ってきているの。後で顔でも見ましょうかね」
ゾルダートとダークレイの帰還を聞かされたシェルディアは少し驚いたような表情を見せた。この期間の間に2人も帰って来ているとは、シェルディアも思っていなかったからだ。
「元光導姫で今は闇人のあの子は色々と気難しいけれど、挨拶くらいは受けてくれると思いたいわね」
「・・・・・・・・・・」
「分かったわよ。話してあげるから、そんなに睨まないでちょうだいな。全く、せっかちね」
無言で自分を見つめてくるレイゼロールに軽く肩をすくめたシェルディアは、レイゼロールに自分の用件を告げた。
「今夜、私はキベリアを使って罠を仕掛けるわ。スプリガンを誘き寄せるための罠をね。だから、手出しはしないで。今日はそれを言いに来たのよ」
「ッ!? キベリアを使った罠だと・・・・・? なるほど、キベリアを囮にする気か・・・・・・・」
その言葉に、レイゼロールが衝撃を受けた顔になる。スプリガンが現れる場所は決まっている。それは光導姫や守護者、闇奴や闇人が戦う戦場だ。
「ええ。じゃ、そういう事だから。くれぐれもお願いね。用は済んだし、後はあの子たちに挨拶でも――」
「どういうつもりだ、シェルディア。今まで仕掛けなかったお前が、なぜこのタイミングで仕掛ける? それに、わざわざ我に予告をしていくのも引っかかる。お前らしくない。・・・・・・我にはそう思えるがな」
自分の前から去ろうと背を向けたシェルディアに、レイゼロールはそう語りかけた。
「・・・・・・・・あら、あなたもそう言うのね。キベリアにも言われたけど、そんなにかしら」
シェルディアはクスリと笑うと、再びレイゼロールの方に振り向いた。
「なら、私が変わったのでしょう。私がキベリアを囮にスプリガンを誘き寄せようと思ったのは、最初は焦りや戸惑いからだったけど、今は違うわ。これは私が変わったという1つの区切り。そのための行動よ」
そして、シェルディアは暖かな、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべ、レイゼロールにそう言葉を放った。
「・・・・・どういう・・・・・ことだ・・・・・・・・?」
レイゼロールが珍しく、本当に珍しく呆然とした顔になる。それくらい、シェルディアがいま言った言葉は衝撃的で理解の範疇を超えたものだったからだ。
「ふふふっ、あなたのそんな顔を見るのは初めてかもね、レイゼロール。そんなに驚いてもらえるのなら、言った甲斐があったというものね」
シェルディアはレイゼロールを見ておかしそうに笑うと、こう言葉を続けた。
「まあ、あなたの驚きは分からないでもないわ。あなたとの付き合いも随分長い。私がこんな事を言うなんて想像もしていなかったでしょう。一応言っておくと、私も驚いてるのよ? 私自身がこんな事を言っている事にね」
シェルディアは首を傾げながら自分を指差した。その仕草は、小さな少女が分からないと感じているジェスチャーに似ていた。
「何があった・・・・・? お前が東京にいる間にいったい何が・・・・・・・・・・」
レイゼロールがその変化の理由を、そのきっかけをシェルディアに問いかける。その顔は未だに驚きと疑問が混じったままだ。




