第751話 ごく普通の少女のように(3)
「何か珍しいですね、シェルディア様がそんなこと言うなんて。というか今考えれば、こちらから罠を仕掛けてまでスプリガンを誘き出すって事も、何かシェルディア様らしくないような気がするんですけど・・・・・・・・何かありました?」
シェルディアは、面白そうなものや興味の惹かれるものなどには敏感だ。キベリアもその事だけは嫌と言うほど知っている。シェルディアのその敏感さは、およそ無限の生を生きる不老不死者が感じている退屈さから来ているのだろう。キベリアは直接シェルディアにその事を聞いたわけではないが、その推察はほとんど間違っていないと思っている。
シェルディアがスプリガンに興味を抱き、ちょっかいを掛けてみたいと感じているのもそれが理由だろう。光と闇の戦いに突如として出現した、正体不明・目的不明の男。スプリガンについては様々な謎がある。それは例えば、その凄まじい戦闘力であったり、力の性質であったり、その立ち振る舞いなどといったものだ。シェルディアはスプリガンに自分の退屈を紛らわせてくれる事を期待しているのだと、キベリアは思っていた。
退屈に痺れを切らしたシェルディアが、スプリガンを誘き寄せる行動を取る。普通に考えれば、そこにおかしな事は何もない。
だが何というのだろうか。いつものシェルディアならば、例え退屈に痺れを切らしても、自分から何かをするというような事はない気がする。事実、今までもそんな事はシェルディアはして来なかった。
そこにはシェルディアの流儀や気位、そういう思想的なものや感じ方があったからではないだろうか。
キベリアには今のシェルディアは何かを焦っているように思えた。
「・・・・・・・・・・生意気ね、キベリア。たかだか数百年ほどの付き合いのあなたに、私という存在が理解できるの?」
キベリアにそんな事を言われたシェルディアは、どこか冷たい口調でキベリアを見つめた。
「い、いや別にそこまで驕ってはいませんよ! 気に障られたのなら謝ります。すみません。ちょっと、帰城影人がらみで何かあったのかなと思っちゃっただけです・・・・・・・」
「・・・・・・・・・待ちなさい。何でそこで影人が出てくるのよ?」
キベリアの謝罪の言葉を受けたシェルディアは、訳が分からないといった表情を浮かべた。
「何でって・・・・・シェルディア様この場所だと、というかあの人間と話している時が1番機嫌がいいじゃないですか。私がここに住み始めてから、シェルディア様だいたいずっと機嫌がいいですし・・・・・・・・そんなシェルディア様がいま少し変というか、機嫌が悪いのは帰城影人と何かあったからかなって・・・・・」
キベリアは少しビクついたような顔で、自分がそう思った理由を述べる。キベリアの理由を聞いたシェルディアは、少し驚いたようにその目を大きくした。
「・・・・・・そう。あなたの目には、私はそう映っていたのね。・・・・・・・・・別に影人とは何もないわよ。確かに、私はあの子の事を気に入っているけれど、それだけよ。気に入っている、それ以上の感情は何もないわ」
静かに、独白するように、シェルディアはそう答えた。その言葉はどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「元々、私は人間が好きよ。影人を気に入っているのはその感情の延線上。ただそれだけよ」
シェルディアはそう言葉を付け足すと、イスから立ち上がった。




