第750話 ごく普通の少女のように(2)
「闇奴を生み出す事は流石の私にも出来ない。でも、闇人ならここにいるわ。しかもその闇人は、いつでも自由に力を解放したり封印したりする事が出来ると来ている。更に言うなら、闇奴よりも最上位闇人の方が囮としても大きい。ね、あなたがピッタリでしょうキベリア?」
「うっ・・・・・・・・・」
シェルディアの説明を聞いたキベリアは言葉を詰まらせた。それはつい自分が納得しかけたからだ。東京にはキベリアと同じ最上位闇人の響斬がいるが、響斬はまだ力を封印されている。ゆえに、響斬を囮とする事は出来ない。なら残るはキベリアだけという事になる。
「で、でも、それなら冥とか殺花とかクラウンとかもいるじゃないですか! それならちゃんと囮になるはずです。わざわざ私じゃなくたって・・・・・・」
それでもなお、キベリアは食い下がろうとした。
「バカね。何で私がわざわざそんな事をしなくちゃならないのよ。あの子たちを囮にしようと思うと手間が多いのよ。私がそういうの嫌いなのをあなたも知ってるでしょ」
だが無情にも、シェルディアはバッサリとキベリアの言葉を拒否した。
「ええ・・・・・・そんな一蹴しなくてもいいじゃないですか・・・・・・」
シェルディアからそう言われたキベリアは、一瞬引いたような顔を浮かべたが、すぐに軽く泣きそうな顔になっていた。
「そんな情けない顔しないの。というか、言ったでしょ。あなたはスプリガンと戦わなくてもいいのよ。スプリガンが現れたら、私が彼と相対するから。そうなったら、あなたは戦っているであろう光導姫たちから撤退すればいいわ。たったそれだけの事よ。何をそんなにまだ渋る必要があるの?」
「ええと、その・・・・・ぶっちゃけ面倒くさ――」
「言っておくけど、あなたに拒否権はないからね」
キベリアは本音を述べようとしたが、キベリアの言葉を最後まで聞かずにシェルディアはニコリと笑みを浮かべた。
「じゃあ今までの会話意味ないじゃないですか・・・・・・・・・・」
死刑宣告をなされたキベリアは、ガクリと首を落とし力なくそう呟いた。キベリアにシェルディアに逆らう勇気はない。逆らえばどんな目に合うか分かったものではないからだ。つまりこの瞬間、キベリアが囮になる事が決定した。
「・・・・・・・分かりました。やりますよ。やればいいんでしょう。でも、シェルディア様。スプリガンが現れなかったらどうするつもりなんですか? 普通にスプリガンが出現しない可能性もありますよね?」
全てを諦めたキベリアが、どこかムスッとした声でそんな質問をした。それは意趣返しではないが、キベリアのせめてもの反抗のようなものだった。
「しばらくは待つつもりだけど、彼が現れなかったら素直に帰るわ。でも、その時は多分あまり面白い気分じゃないから、何かに当たらないか心配だわ」
キベリアの細やかな反抗の意思が込められた質問に、シェルディアは淡い笑みを浮かべそう言った。シェルディアのその笑みを見たキベリアは、自分の中に疑問が生まれたのを感じた。




