第749話 ごく普通の少女のように(1)
「――そうだ。囮を使ってみましょう」
9月20日木曜日、夜。自宅でイスに座りながらシェルディアは唐突にそう呟いた。
「な、何ですかいきなり・・・・・・?」
シェルディアとテーブルを挟んで対面のイスに座っていたキベリアは、驚きと疑問が入り混じったような顔を浮かべそう言葉を放った。
「スプリガンと会う方法よ。ここ数日ずっと何かいい方法がないか考えてたんだけど、やっと思いついたの」
キベリアの言葉にシェルディアはそう答えた。その顔はイタズラを思いついた子供のように輝いている。
「スプリガンに会う方法・・・・・? つまり何かを囮にしてスプリガンを誘き出すって事ですか? でも、あいつが食いつくような囮って何かありますかね? 私には思い浮かばないんですけど・・・・・・・・」
「そう? 私には今もその囮の姿がよーく見えているけど」
首を傾げるキベリア。そんなキベリアに、シェルディアは意味深な視線を向けた。
「え? ・・・・・・・・・・・・・・ま、まさか私ですか?」
シェルディアに見つめられたキベリアは、数瞬ほど固まると、自分を指差しながら呆然とそう聞き返した。
「ふふっ、当たりよ。私は最上位闇人であるあなたなら、スプリガンを誘き寄せる事の出来る餌になり得ると考えているわ」
そして、純粋なる人外たる少女の姿をしたモノは、その答えが正解だと頷き笑った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよシェルディア様!? 私にスプリガンを誘き出すための囮になれって言うんですか!? い、嫌ですよ私は! 私あいつが本当に無理なんです! スプリガンとまた戦うなんて本当に嫌ですからッ! というか、私が囮になるわけないじゃないですか!」
キベリアは全力で首を左右に振り、シェルディアに拒絶の言葉を叫んだ。その顔はどこか青ざめているようにも見える。まあ無理もない。キベリアはスプリガンとの戦いで全身を殴打され、ボロボロにされたのだ。キベリアにとって、スプリガンは軽いトラウマだった。
「まあそう叫ばない。後、何か勘違いしているようだけど、あなたはスプリガンと戦わないわ。どちらかと言うと、戦うとしたら光導姫と守護者ね」
「へ・・・・・・・? ど、どういう事ですか・・・・・・?」
落ち着き払った声でシェルディアからそう言われたキベリアは、疑問からその眉をひそめた。
「スプリガンが現れる場所は決まっているわ。それは即ち、光と闇が激突する戦場よ。更に条件を付け足せば、スプリガンはこの日本の東京によく出没する。なら、この地でその戦場を用意すれば、スプリガンが現れる可能性は高いわ」
光と闇が激突する――その言葉が示すのは、光導姫と守護者といった光サイドと、闇奴や闇人といった闇サイドが戦うという事だ。キベリアも、シェルディアのその言葉の意味については理解していた。




