第744話 怪物の心(1)
「――ピュルセさん! ここの看板の色は赤にしようと思ってるんですけど、どうですかね?」
「うん、いいと思うよ。ただ、色味は少し暗めの方がいいかもしれないね。君たちのクラスは確かお化け屋敷だろう? 鮮血を思わせる明るい赤ももちろん良いとは思うが、暗い赤にする事で不気味な雰囲気をより演出できる。だから私としてはそちらを勧めるかな」
「なるほど! ありがとうございます。アドバイスの通り、色は少し暗めにしてみます!」
「ピュルセさん、これは――」
「特別アドバイザー、ここをこうしようと思ってるんですけど――」
「ピュルセさん!」
「ピュルセアドバイザー!」
(・・・・・・・・・相変わらず凄え人気だな、有名芸術家サマは)
風洛高校2階。その廊下で生徒たちに囲まれ、ひっきりなしに相談を受けているロゼの姿を廊下の端から見ながら、影人はそう思った。
今日は9月14日の金曜日、午後2時過ぎ。影人がロゼに学校案内をした日からちょうど1週間経った。
あの日ロゼの学校案内を終えた影人は、これでやっと面倒ごとが終わり、しばらくロゼと関わる事はないだろうと思っていたのだが、月曜日に学校に登校し、午後からいつも通り文化祭の準備をしようとすると、急遽アナウンスが流れ緊急全校集会が開かれた。影人を含めた殆どの全生徒は疑問を抱いたまま体育館に向かったが、そこで生徒会長である真夏から驚きの発表がなされた。
真夏は壇上の袖からロゼを出現させ、これから文化祭が終わるまでの期間、ロゼを特別アドバイザーとして風洛高校に招くと宣言した。ロゼを案内した影人だったが、当然そのような事は知っていた筈もなく、影人もかなり衝撃を受けた。
真夏によれば、「芸術や文化に深い造詣を持ち、自身もプロの芸術家として既に有名な当氏を特別アドバイザーとして招く事により、文化祭の更なる成功を願う」との事だった。それに加え、元々ロゼと真夏が顔見知りであったという事もあり、今回のロゼの特別アドバイザー就任が決定したと、真夏は述べていた。
それからロゼを特別アドバイザーとして迎え入れた風洛高校は、今まで以上に活気を帯び始めた。ロゼは生徒たちの出し物に関する相談に、的確なアドバイスをし、生徒たちはそのアドバイスを参考にしつつ活動に取り組んだ。ロゼが風洛高校の特別アドバイザーになって数日が経過したが、ロゼの人気はいま影人の目に映っている通り凄まじいものだった。
(ったく、何でお前の所の光導姫はこう自由というか面倒というか・・・・・・何とか言えよ、ソレイユ)
『いや、何とか言えと言われてもですね・・・・・・・』
警戒すべき人物が自分の近くにしばらく存在するというストレスを、影人は軽い愚痴としてソレイユに呟いた。影人から念話を受けたソレイユは、いま影人が見ている光景を視覚共有しながら困ったようにそう言葉を返す。




