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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
741/2051

第741話 特別アドバイザー ロゼ・ピュルセ(4)

(よかったな、チャラ男。お前の絵、下手くそとか思ってごめんな。言い訳なるかもだが、俺もお前の絵は好きだぜ)

 影人も少し口角を上げてそんな気持ちを抱いた。いきなり何様だこの前髪、と思わなくもないが、まあ都合がいいのが人間というものである。

「うん、その意気だ。それでは最後になってしまったが、君の絵を見てもいいかな?」

「っ、ど、どうぞ!」

 ロゼが美術部最後の1人、眼鏡を掛けた男子生徒にそう確認を取る。眼鏡を掛けた男子生徒は、緊張した様子でロゼにキャンバスを見せた。

(へえ、上手いな・・・・・・・)

 ロゼの後ろからキャンバスを見た影人は、素直にそう思った。他の美術部の部員たちの絵より更に上手い気がする。

 眼鏡を掛けた男子生徒の絵は少し独特だった。教室の前の「メイド喫茶」と書かれた看板の前に、古代ギリシャ風の服を纏った男たちが3人ほど立っており、男たちが看板を指差しながら何やら議論している、という感じの絵だ。まだ下書きの段階だったが、その下書きは全て完成しているように影人には思えた。

「ふむ、これは面白い絵だね。見たところ、古代ギリシャの哲学者が『メイド喫茶』とは何なのかを真剣に議論し合っている様子だ。古代の賢人たちがね。何ともユーモアのある絵じゃないか。しかもメッセージ性もある。この絵に込められた意味は、理解かな? 古代の人物たちが現代の異文化について理解しようとしている。その姿勢が大事だという事、その果てにあるのは相互理解。人は誰とでも分かり合えるというメッセージ・・・・・・・・と、間違っていたら申し訳ない」

 ロゼが芸術家らしくその絵について考察した。その考察を聞いていた影人は、なるほどと思うと同時に穿ち過ぎではと思ったが、どうやらロゼのその考察は的を得ていたようで、

「お、お分かりになりますか!? さすがピュルセ女史です! その観察眼の鋭さ、感服します!」

 眼鏡を掛けた男子生徒は興奮したようにそう言った。

「文化祭というものは、好きな人もいれば嫌いな人もいると僕は思うんです。そういう人たちからすれば、文化祭はつまらないものでしょう。文化祭を好きな人からすれば、文化祭を嫌いな人は理解できない。文化祭を嫌いな人からすれば、文化祭を好きな人は理解できない。でも、それはお互いの事を理解し合えば解消する事だと思うんです。お互いがお互いを理解しあえる事が出来れば、文化祭は全員が楽しめるものになる。だから、理解しようとする事が大切だという自分の考えを、僕はこの絵に込めました」

 眼鏡を掛けた男子生徒は熱く自分の絵について語った。込めた理由は立派だが、この絵からその事が分かるか? と影人は思ったが、それをいま言うのは野暮というものだろう。

「ピュルセ女史、ご迷惑を承知で述べさせていただきますが、出来れば何か絵についてアドバイスを頂けないでしょうか? そうすれば、僕の拙い絵も多少はマシになると思いますので・・・・・・!」

 眼鏡を掛けた男子生徒が懇願するようにロゼにそう言葉を述べた。アドバイスを求められたロゼは、しかし男子生徒にこう告げた。

「ふむ。悪いが、創作活動において私はアドバイスは出来るだけしないようにしているんだ。アドバイスをすれば、その制作者の感性の表現たる作品に私の感性が混じってしまう。それは、あまり美しくない。君の絵は、君の考えと感性における君だけの絵だ。私はそこに私を混ぜたくはない。だからアドバイスは出来ない。すまないね」

 ロゼは珍しく申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

「そ、そうですか。確かに、ピュルセ女史の言う事は最もですね・・・・・・・わかりました。僕も、僕の全力で僕の全てをこの絵に表現してみせます!」

 眼鏡を掛けた男子生徒は一瞬残念そうな顔になったが、すぐに気力の満ちた表情を浮かべた。

「それでこそ表現者だ。美術部の諸君、ありがとう。とても有意義な見学だった。文化祭当日は、私も必ず訪れるから、君たちの完成した絵を楽しみにしているよ。それでは失礼」

「美術部の皆さん、ご協力ありがとうございました。私からもお礼申し上げます」

 ロゼが優雅に一礼をして美術部の部員たちに感謝の言葉を述べる。影人も案内人という立場上、頭を下げて丁寧な言葉遣いでお礼の言葉を口にした。

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