第735話 案内人、帰城影人(3)
ロゼは1年生たちが劇の練習をしているのを見たり、大道具や小道具を作っているのを見て満足しているようだが、影人からしてみれば別に特段面白みのない事だったので、あまり興味はなかった。そういった心情もあり、影人は冷めたような口調でそう相槌を打ったのだった。
「・・・・・次は2年の教室です。ウチの高校は2年生からはクラス事の出し物は自由になります。それに伴ってかどうかというわけではないですが、クラスの垣根を越えて個人たちで出し物をする事も可能だったりします。こっちの方は1年からも出来ますが」
「説明ありがとう。なら、ここからはより個性的な活動が見られるという事だね」
2階にたどり着いた影人は、ロゼに2年生の出し物について簡単に説明した。廊下には1年生のいた1階同様、生徒たちが溢れていた。ロゼはそんな生徒たちを興味深げに見つめながら、影人の説明に頷いた。
影人とロゼは1番近くの2年1組、光司が所属する教室に足を踏み入れた。2年1組の出し物は、確か演劇だ。2年生は既に1年の頃に演劇をしているはずだが、それがクラスの大多数の意見だったのだろう。実際、演劇は文化祭の定番だし、劇が好きという者たちも多いのかもしれない。
「ん、誰だ? って、ああ。さっきアナウンスで言ってた見学の人か。ようこそ、風洛高校2年1組へ。歓迎しますよ」
教室に入ると黒板に何かを書いていた男子生徒が影人たちに気がつき、朗らかな笑みを浮かべた。影人とロゼはその男子生徒に感謝の言葉を述べ、教室内を見学した。影人がパッと周囲を見た限り、光司の姿は見えない。先ほど真夏と一緒にいた事からも、今日は生徒会の作業をしているのだろう。全く急がしい男だ。
2年1組の教室を見学し終えた2人は、そのまま2年2組の教室に入った。2年2組は出し物としてミニカジノをやるらしい。といっても、実際にお金を掛けるわけではなく、あくまでもどきだ。プラスチックのコインをミニゲームで集めて、それをお菓子などの景品と交換する。ミニゲームは、ポーカーといったカードゲームや他のテーブルゲームなどを予定しているらしい。中々面白いアイデアだなと影人は思った。
続く2年3組は影人のクラスと同じくミニ喫茶。だが、こちらは影人のクラスのコスプレ喫茶ではなく、あべこべ喫茶というものらしい。あべこべがどういった意味か、影人は最初分からなかったが見学している内に分かった。どうやら、男女の服装があべこべという意味のあべこべらしい。つまり、男子が女給の格好を、女子が男性の給仕の格好をするという事だ。影人は何だその男子側が地獄の喫茶はと思ったが、ロゼは大いに興味を惹かれていた。天才という奴はよくわからんと影人は思った。
2年4組は教室を迷路に改造して、それを出し物にするようだった。もちろん仕掛けは色々と作るらしいが今はまだ秘密との事だったので、段ボールなどを壁とする作業しか見られなかった。
「・・・・・・・・・・・」
次は2年5組。しかし、影人は2年5組の教室のドアを開けるのを少しためらった。本心で言えば、このクラスのドアは開けたくない。なぜなら、このクラスにはあの2人が所属しているからだ。




