第734話 案内人、帰城影人(2)
「では次の場所に移動しますけど、どこが見たいとかありますか? といっても、俺は部活動とかには所属してないんで、場所を教える事くらいしか出来ませんが・・・・」
「ありがたい申し出だが、出来ればぐるりと全体を回ってみたいかな。案内の君には迷惑を掛けてしまう形になるが、よかったかな?」
「・・・・・・分かりました。ならこのまま1年の教室とかを見て回りましょうか。さっき生徒会の人がピュルセさんの見学の事を校内放送で伝えてくれていますから、どこでも見学は出来ますし」
ついさっき影人がロゼを伴って校舎に入ったところ、アナウンスが流れた。声の主は真夏でも光司でもない生徒会の女子生徒で、内容はロゼの見学についての事だった。急遽、有名な芸術家である方が学校見学に来たので、各教員、各生徒たちはその見学活動に協力すること、というものであった。ゆえに、影人たちは1年の教室だろうが、2年の教室だろうが、勝手に立ち入って見学できるというわけだ。もちろん3年生の教室や職員室なんかも勝手に入れるだろう。
「うん、お願いするよ。いやはや楽しみだ。まさかスプリガン・・・・・こほん、ある人物を追い日本に来てこんな役得を得ようとは。昨日君たちと出会ったこと、真夏くんがここの生徒であった事など様々な要因に感謝だね」
(てめえ、やっぱ俺目的じゃねえか・・・・・!)
ロゼの言葉を聞き逃さなかった影人は、思わず内心でそうツッコんだ。昨日の昼にロゼと出会った時にそうかもと予想はしていたが、これで確信した(出来れば確信したくはなかったが)。やはりロゼは影人を追って東京に来たのだ。
(ちくしょう。行動力のある変態に追われてんのか俺は。最悪だ・・・・・・・・・)
影人は内心絶望した。不幸だ。余りにも不幸過ぎる。もしロゼに自分がスプリガンだとバレれば、どんな事をされるか分かったものではない。影人のロゼに対するイメージは、パリのヴァンドーム広場で出会った時のイメージが強すぎる。
「さ、行こうか帰城くん」
「・・・・・・・ええ」
まさか自分の追っている人物が、こんな近くにいるとは露ほども思っていないであろうロゼが、影人にそう促してくる。影人はロゼの促しにそう返事をすると、ロゼの前を歩き始めた。
それから影人とロゼは1年生の各教室を見て回った。1年生たちはロゼの登場に色めきだっていた。その要因としては、ロゼが有名な芸術家という事もあるのだろうが、ロゼの外見が大きかったように思われる。外国人の、それも美人でモデルのような体型の女性が訪れれば、男子女子関係なく高校生は興味を持つものだ。
「うん、いい。実にいいよ。皆活気がある。その活気と熱量を持って、仲間たちと共にそれぞれの活動に邁進していく・・・・・・素晴らしい」
「・・・・・・・・そうですか、ならよかったです」
1年生の教室を見学し終えた2人は2階を目指すべく階段を登っていた。風洛高校では1年生の出し物はだいたい最初から既に決まっていて、1年生たちは全員体育館で劇をする。もちろん各クラスごとにその題目は違うので(自分たちで脚本を作ってオリジナルの劇をしてもいいし、既存の物語の劇をやってもいい)、1年生たちはそれぞれ自分のクラスの劇に関する作業をしていた。




