第731話 押し掛け芸術家(4)
影人が校門にたどり着くと、そこには多くの生徒たちが集まっていた。影人はそんな多くの生徒たちの中に混ざる形で、件の部外者の姿を見ようとした。
「いやだから、関係者以外は立ち入り禁止なんですよ。いくらあなたが著名な方とはいえ、事前に何の連絡も許可もなしに当校に来られては・・・・・」
「それは本当に申し訳ないと思っている。間違いなく、私の不手際だ」
人混みの中から校門の前に視線を向けてみると、そこには風洛高校の教頭と1人の少女がいた。教頭は難しい顔をしながら少女に何かを言っており、その少女は教頭に向かって素直に謝罪の言葉を口にしていた。
「いや、昨日たまたま貴学の生徒たちと出会い、少し興味を持ってね。色々と調べて制服や地域からこの学校の生徒だと分かったのだが、どうやら貴学はいま文化祭の準備をしているとの事も分かった。ああ、情報源は貴学のホームページが参考だよ。とにかく、私はこれでも芸術を仕事としている身だ。文化の祭の準備と聞かされれば、どうしても確かめたくなるのが性分というもの。ゆえに、急に押し掛けるような形で貴学に来てしまったというわけだ。どうか、私の浅慮を許していただきたい。ムッシュ」
水色と一部分が白色に染まった髪の色をしたその少女は、弁解するようにそう言った。服装は昨日とほとんど変わらない。強いて言えば、昨日は白のシャツであったが、今日のシャツの色が青に変わったくらいだ。モデルのようなその体型には、ジーパンがよく似合っていた。
(やっぱり『芸術家』じゃねえか・・・・・・)
その少女は、やはり一昨日パリで出会い、昨日昼間に光司たちと一緒に偶然出会った、光導姫ランキング7位『芸術家』にして著名な芸術家、ロゼ・ピュルセだった。
「はいはいはい! どきなさいあんたら! 邪魔よ!」
影人たち生徒がロゼと教頭のやり取りを見つめていると、突如そんな声が聞こえて来た。影人が声のした方向に顔を向けると、そこには2人の生徒がいた。
「この私が通るわよ!」
「すみませんみなさん。少し道を開けてください」
元気溌溂とした声と爽やかな声。その声の主たちを影人は、いや、この風洛高校に通う生徒たちはよく知っている。生徒たちは2人を見てその言葉を聞くと、2人の前に道を作った。
「生徒会長、榊原真夏。参上よ! さあ、教頭先生。私が来たからにはもう安心です! 校長から、対応を引き継ぐように言われていますので、どうか通常業務に戻られてくださいな!」
「副会長の香乃宮です。教頭先生、今までご対応ありがとうございました。会長が仰った通り、対応の方は僕たちが引き継ぎますので」
現れたのはこの風洛高校の生徒会長である真夏と副会長である光司だった。2人はロゼと話をしていたこの学校の教頭にそう言葉を告げた。
「ああ、榊原くんと香乃宮くんか。分かった、校長先生が君たちに任せたというなら、私は戻ろう。ありがとう。後は頼んだよ」
真夏と光司からそう告げられた教頭は、ホッと息を吐くと2人に軽く頭を下げてこの場から去っていった。
「・・・・さて、教頭は行ったわね。まったく、何であんたが風洛に来てるのよ『芸術家』。あんたが校門にいるって校長から聞かされた時は、さすがの私もイスから転げ落ちるかってくらい、驚いたわよ」
教頭が去ったのを確認した真夏はため息を吐きながら、ロゼにそう言った。真夏とロゼは『光導十姫』で、今年の光導会議でも一緒だった。つまり顔見知りだ。




