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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第73話 対決、レイゼロール下(3)

影人の予想通り、陽華と明夜、アカツキはソレイユのいる神界へと転移していた。ただ、スケアクロウの姿だけはどこにも見当たらない。

「3人とも、大丈夫ですか!?」

 光が満ちる神界にソレイユの声が響く。

 その声と姿を見て、光導姫たちは驚きの声を上げる。

「そ、ソレイユ様!?」

「ど、どうしてソレイユ様が・・・・・?」

 陽華と明夜は訳が分からないといった表情を浮かべるが、アカツキだけは、まだ驚いてはいるものの、徐々に状況を理解していく。

「なるほど、そういう・・・・・・2人とも、ソレイユ様は僕たちの状況を見て、転移させてくれたんだよ。そうですよね? ソレイユ様」

「ええ、あなたの言うとおりです。光導姫アカツキ。私はあなたの眼と耳を通してあの状況を見守っていました。緊急事態だったとはいえ、あなたの眼と耳を共有させてもらってすみません」

 申し訳なさそうにそう言うと、ソレイユは頭を下げた。女神のその姿にアカツキは慌てたようにパタパタと手を振った。

「いやいや、そんなことで頭を下げないでください! そんなことは全く気にしてませんし、そのおかげで今こうやって僕たちは無事なんですから!」

 実際、ソレイユが転移させてくれなければ危なかった。スプリガンが放った黒い雨を防ぐ方法は少なくとも自分にはなかったのだから。

「そう言ってくれると助かります。・・・・・一応、言い訳をさせてもらうと、あなたたちの前にレイゼロールが現れた時に、転移させようとしたのですが、あの結界は転移ができない効果があったんです。なので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あの時しか、あなたたちを転移させることが出来なかったのです」

 ソレイユは光導姫たちに務めて自然にそう言った。内心では今すぐ傷を負い、暴力的な力を見せた影人と話をしたかったが、まずはこの3人の対応が先だ。

「そうだったんですか・・・・・あのソレイユ様、私達と一緒にいた守護者の人がいないいんですが、あの人はどうしたんでしょうか?」

 ソレイユの言葉に3人の光導姫は納得した。そして陽華がそんなことをソレイユに問いかけた。かかしも自分たちと同じ光に包まれたはずだが、かかしはどこにも見当たらない。

「ああ、守護者の彼ならラルバが転移させました。守護者は私の管轄ではないので、ラルバにしか転移はできないんです。同じように、ラルバも光導姫の転移はできません」

「そうですか、よかった・・・・・」

「ええ、そうね。安心したわ・・・・」

 その事を知らなかった陽華と明夜はホッと息を吐いた。2人とは違い、その事を知っていたアカツキはその部分に関しては心配していなかった。

「あの、ソレイユ様。1つだけいいですか?」

明夜が毅然とした態度でソレイユに言葉を投げかける。その瞳には信念と不安が混じったような色があった。

「はい、何ですか?」

「ソレイユ様がずっとあの状況を見守ってくださっていたのなら、スプリガンの姿を初めて見たと思います」

「ええ、そうですね。私もスプリガンのことは、あなたたちから聞いていましたが、姿を見たのは初めてです」

 ソレイユは明夜の言葉にそう答えた。まあ、ソレイユは影人が初めて変身して、陽華と明夜を助けたときに、明夜の視覚をこっそり共有していて、その姿を確認していたから、これは嘘なのだが。

「その・・・・・・スプリガンは確かに闇の力を使うし、謎の人物です。ソレイユ様が転移させてくれなければ、スプリガンの放った黒い雨に貫かれていたかもしれません。・・・・・・・でも、スプリガンは悪い人では、敵ではないと思うんです」

 そこで明夜は大きく深呼吸した。確かに、レイゼロールとの戦いの終盤で、スプリガンは人が変わったようだった。そのスプリガンに恐怖を感じなかったと言えば嘘になる。

 だが、それ以前にスプリガンは何度も自分たちを助けてくれた恩人だ。その恩人のことを、明夜みやはソレイユに誤解してほしくなかった。

 ソレイユと、陽華、アカツキが静かに明夜のことを見守る中、明夜は言葉を続けた。

「スプリガンは何度も私達を助けてくれました。彼が私達を助けてくれた理由は分かりません。ですが、その事実に変わりはありません。だから・・・・・・・彼のことを危険だとか、悪くは思わないでほしいんです」

 いまいち言葉がまとまらない。自分の気持ちを全て言葉に表すのは何と難しいことだろう。ただ、ソレイユには自分の気持ちを正直に伝えたかったのだ。

「明夜・・・・・・・」

 陽華にも明夜の気持ちはわかる。陽華も明夜と同じく、何度もスプリガンに助けられた。その恩人をマイナスに思われるのは、つらいことだ。

「・・・・・・・私も同じ気持ちです。素性も何も知らないけど、スプリガンは私たちにとって恩人なんです。そのことをソレイユ様には分かっていてもらいたいんです」

 明夜の思いに続いて陽華も自分の気持ちをソレイユに伝えた。明夜も言った通り、後もう少しというところで、自分たちはスプリガンの攻撃を受けそうになったが、あの時のスプリガンは何か様子が変だった。そのせいでかはわからないが、スプリガンはあのような無差別攻撃を行ったのではないかと陽華は考えていた。

「2人とも・・・・・・」

 ソレイユはその言葉に思わず「ありがとう」と言いそうになった。たった1人で、誰にも言わず頼らず、正体を知られてはならない、という自分の無茶で理不尽な要求を守り、戦ってくれている少年のことを、陽華と明夜はその優しさをわかってくれている。その事実にソレイユの胸の内が温かくなる。

 だが、そんな言葉は口が裂けても言えない。自分とスプリガンが繋がっていることは誰にも知られてはならないのだ。それが自分の決めたルール。スプリガンはどの勢力にも属さない謎の人物、そのことに意味があるのだから。

「・・・・・・ソレイユ様、僕はこの2人ほどスプリガンのことは信用していないけど、決して悪い人ではないと思います。彼の意図はわかりませんが、結果的に僕たちを守ってくれていましたし」

 少し間を置いて、アカツキも口を開いた。アカツキは初めてスプリガンに出会ったが、話を聞いて自分が思っていた通り、悪い人物には思えなかった。

 まあ、最後に殺傷力のある雨を無差別に降らせてきたことには、ふざけるなと感じ軽く殺意は覚えたが。だが、結果的にいま自分はこうして無事なわけなので、そのことには目を瞑る。

「・・・・・・・そうですか。あなたたちがそう言うのなら、スプリガンのことは留意しておきましょう。またラルバと話し合うこともあるでしょうし、ラルバにあなたたちの考えを伝えておきます」

 少し険しい顔を作りながら、ソレイユはそう言った。表面上、あくまで自分はこのようなスタンスを取らねばならない。

「はい。お願いします」

「ありがとうございます、ソレイユ様」

 明夜と陽華はソレイユに頭を下げた。その真摯な態度は明夜と陽華の人柄を窺わせるものだった。

「頭を上げてください2人とも。あなたたちが頭を下げる必要はどこにもありません。一応、聞いておきますが3人とも怪我はないですか?」

「あ、それは大丈夫です。僕を含め、怪我をした光導姫はいませんよ。もちろん、かか――守護者も大丈夫です」

 ソレイユの問いかけにアカツキが答える。レイゼロールとはスプリガンが戦っていたし、闇奴との戦いで傷を負った者はいない。

「そうですか、それはよかった。では、今日はもう遅いのでこれくらいにしましょう。あなたたちを地上に送ります。送る座標はあなたたちが戦う前にいた場所になりますが、いいですか?」

 ソレイユの言葉に3人は頷いた。「では」とソレイユが言うと、3人の体が光に包まれ始めた。

「3人とも、今日はありがとうございました。そして、ごめんなさい。あなたたちが危険な時に私は何もして上げられなかった・・・・・・・」

 スプリガンが結界を完全に壊すまで、自分はただ見て聞くことしか出来なかった。3人は常に危険な状態だったし、最後は影人の攻撃にまきこまれそうになった。普段から命の危険がある光導姫という役割を、少女たちに押し付けている自分がそんなことを思うことすら烏滸おこがましいが、その言葉はソレイユの偽りのない本心だった。

「そんなことないですよ、ソレイユ様」

「そうですよ、ソレイユ様の優しさに私達はいつも助けられていますから!」

「あまり自分を卑下しないでくださいよ、女神さま?」

 明夜、陽華、アカツキがソレイユにそんな言葉を返した。その言葉にソレイユは少女たちの優しさを改めて感じると共に、自分への嫌悪感がさらに強まった。

(私はいつまで少女たちに戦いを強いるのかしら・・・・・・)

 そんな思いは毛ほども顔色に出さず、ソレイユは「ええ、ありがとう」と言って、3人が地上に戻るまで笑顔を作った。

 そして3人は完全に光に包まれると、地上へと戻っていった。

「・・・・・・・・・さて、まずは影人と少し話さなければなりませんね」

 影人も疲れているだろうが、彼はレイゼロールとの戦いで無視できない傷を負っていた。必要なら、傷の手当てのための措置を講じなければならない。

「――影人、聞こえますか」

 ソレイユは早速、影人との念話を開始した。

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