第729話 押し掛け芸術家(2)
ちなみに、昨日のレイゼロールについての話は、影人にしか明かされていない。レイゼロールの過去や最終目的については、本来は神々しか知らない超極秘事項で、無闇に人間に明かしていいものではないらしい。ソレイユはいつかはラルバと協議して、レイゼロールの事を話さなければならないだろうと言っていた。それは、レイゼロールのカケラが最近になって集まり始め、目的の達成が近づきつつあるからだ。
ゆえに人間で言えば、影人は過去にも現在にもただ1人レイゼロールの背景を知る者となったわけだ。ソレイユやラルバがずっとレイゼロールの事を隠していた理由はまあ理解できる。レイゼロールの正体が元々神で、ソレイユやラルバの友となれば、光導姫や守護者には悪感情が芽生えやすい。それこそ昨日出会ったあの闇人、ダークレイがいい例だ。覚悟を以て戦っていても、いくら光導姫や守護者に善人が多いとは言っても、ソレイユやラルバの友のために自分の友を失えば、その絶望はレイゼロールに向かうだけでなく、ソレイユやラルバにも向きやすいだろう。そうなれば、はっきり言って色々面倒な事になる。
その他にも、レイゼロールをただ敵とする事によって、戦う感情を純粋化させたりするなどの、容赦のない打算的理由が色々とあるのだろうが、それは影人には関係ない話だ。
(・・・・・・・・・だがまあ、俺は奴を救わなくちゃならない。いや、正確に言えばレイゼロールを救うのは、レイゼロールの心の闇を浄化する光導姫だが、救う手助けを俺はする。それが、昨日あいつと約束した事であり、俺の仕事だからな)
影人は右手でペットボトルを弄びながら、内心でそう言葉を呟いた。正直に言ってしまえば、影人はレイゼロールを斃した方がいいと思っている。不老不死のレイゼロールを斃す方法自体は神殺しの武器以外に今のところ思い浮かばないが、それが偽らざる影人の考えだ。レイゼロールを救うには、あまりにもそのリスクが高すぎる。
しかし、昨日影人はソレイユにレイゼロールを救うと言った。斃すのではなく救う。それが何千年もソレイユが密かに抱き続けてきた願いであり、目的だからだ。影人はそのソレイユの願いを肯定した。ソレイユの立場なら、レイゼロールを救いたいと思うのは当然だと。
ならば話は簡単だ。不承不承の雇い主であるが、ソレイユは影人の雇い主。そして影人はソレイユの仕事を受ける雇われ人。影人は雇い主であるソレイユの願いを叶えなければならない。例え、それが心の底からの本心でなくとも。
それが仕事。影人のスタンスであり信条。過去の自分の発言は、今の自分が守る。今の自分が過去の自分の発言を守らなければ、過去の自分の決断を否定すれば、それは過去の自分を否定する事になる。自分を否定するのは、あまり気分が良くない。
(ま、後悔は何もない。俺はこれからレイゼロールを救う仕事をする。ただ、それだけだ。・・・・・・つーか、レイゼロールを救うとしたら誰が救うんだろうな。聖女サマか、金髪か、『提督』か、『巫女』か、はたまた会長か。あの絶望しきってるであろうレイゼロールの奴を救うとしたら、誰が・・・・・・)
影人は今まで出会った最上位の実力を持つ光導姫たちの姿を思い出していく。普通に考えれば彼女たちの誰かが、レイゼロールを浄化する可能性が最も高い。




